既存資料を十分に検討して仮説を立てる

データの収集に取りかかる前に、あらためて既存の文献や資料を十分に調べましょう。類似した先行調査などが見つかる場合があります。また、既存の資料を注意深く読むことで、自分が調べたいことに本当に価値があるか、調査で解決可能な問いかなど、調査の意義を再確認する機会になります。

仮説は、問いに対する暫定的な答えのことです。学生がクラブ等に参加しなくなった理由として、経済的に困窮する学生が増えた、クラブ経験等が就職に有利でなくなった、学生が人間関係を避けるようになったなどさまざまな可能性があります。その中か、文献や統計資料を参照して最も妥当な答えとして仮説を立てます。

質問項目をつくる

目的に合った質問項目をつくる:質問の内容は、大きく4つに分けることができます。

  • 知識に関する質問:「過去に何人の学生がそのクラブを辞めていますか?」
  • 経験や行動に関する質問:「クラブを辞める時にどのような行動をどのような順番でとったか教えてください」
  • 意見や価値に関する質問:「クラブを続けることにどのような意味があると考えていましたか?」
  • 感情に関する質問:「それを言われた時に、どのような気持ちになりましたか?」

これらは、上から順に答えやすい質問になります。意見や価値、感情に関することは、答えにくかったり本当のことを言いたくない場合もあります。一方で、知識に関する質問は答えやすいものの、仮説を検証するデータには不十分な場合があります。そこで、経験や行動に関する質問を中心にすると、目的に合致し、かつ答えやすいインタビューになります。

ここまでの準備を調査の依頼書としてまとめておきましょう。依頼書は、対象者に見せる文書のことで、調査の目的、意義、対象者を選んだ理由、プライバシーへの配慮などをまとめたものです。

対象者に依頼する

仮説と質問項目が決まったら、調査の準備に進みます。特に、調査の対象者を決め、その人に調査へ協力してもらうよう依頼することが重要です。たとえば、学生がクラブ等に参加しなくなった理由を聞くにあたり、文系と理系、男性と女性、学年、在学生と卒業生、国立大と私立大など、どのような対象にするかを決めます。国立大学の文系1年生を3名、私立大学の女性学生3名など、必要となる対象者のプロフィールを設定します。

プロフィールを決めたら、プロフィールに合う人を知り合いから紹介してもらったり、掲示等で公募するなどで、具体的な協力者を探します。協力者には、依頼書を見せて、調査への参加の同意をとります。

インタビューを準備する

話を聞く方法には、1人に話を聞く方法と複数人に同時に聞く方法があります。後者はグループインタビューとも呼ばれます。1人に話を聞く方法が標準的ですが、抽象度の高い質問を聞く場合は他者の回答が聞けることで、発言が広がる場合があります。

たとえば、留学することで語学力がどのように伸びたかという経験を聞く場合と、留学することでどのような力が伸びたかを聞く場合は、後者は抽象度が高くなります。この場合、自分以外の対象者の発言を聞くことで、「自分も同じように思う」「自分は違うと思う」など1人では答えにくい質問にも答えやすくなる場合があります。

対象者の話を聞く

調査では、できるだけ対象者が自由にテーマについて話ができるよう配慮します。具体的には、次のような点に注意します。

  • わかりやすい言葉で質問する:聞きたいことをわかりやすい言葉で質問します。質問項目に抽象的な言葉や専門用語が含まれていると、そのまま質問しても相手は答えられません。
  • 相手の話を評価しない:対象者が話をしている時は、相づちをうつなどにとどめ、相手の話をまとめたり評価したいしないようにします。
  • わからないことはすぐに確認する:対象者の話の中で知らない言葉やわかりにくい説明が出た場合は、その場で質問して確認します。
  • 相手が話しやすいように話してもらう:質問項目の順序にこだわりすぎたり、全てを網羅しようとして、相手の話したいことを遮ったり無理に話をさせることはしないようにします。

対象者を尊重した調査を行う

知らない人に個人的な話をすることは、誰でも抵抗があります。信頼できないと思う相手には、人は本当のことを話しません。インタビューによる質的データの収集では、この点を考慮して臨む必要があります。調査の際は、次のような点に注意しましょう。

  • 礼儀正しく話を聞く:待ち合わせ時間に遅れない、個人的な話をするのにふさわしい場所を選ぶ、答えたくないことは答えなくてよいことを明確に伝えるなど、相手の信頼を損なわない態度に注意します。
  • 調査の結果を報告する:調査の後で礼状を送ったり、調査結果をまとめたり発表した後でその内容を報告します。
推薦文献
谷富夫・山本努(2010)『よくわかる質的社会調査 プロセス編』ミネルヴァ書房.
発行|
名古屋大学教養教育院 & 高等教育研究センター
初版|
2018.3.20
作成|
中島 英博