Center for the Studies of Higher Education, Nagoya University

 

Post Petroleum

石油の替わりとなるモノは存在するのか?

渡辺光哲
伊藤弘樹
藤井智子

はじめに.

 石油は採掘されると、まず加熱分解され、重油・揮発油・軽油・灯油・ナフサなどになる。その割合は重油33%・揮発油21%・軽油18%・灯油11%・ナフサ7%・その他10%となっている。そして、重油は火力発電所や工場での燃料に使われ、揮発油(ガソリンなど)は自動車の燃料に使われ、軽油はバスやトラックなどのディーゼル自動車の燃料に使われ、灯油は家庭暖房用燃料に使われ、ナフサはプラスチックや石油化学の原料に使われる、といったように私達の生活の様々なところに石油は使われている。現代社会は石油なしでは成り立たなくなっているといっても過言ではないだろう。私達の生活に必要不可欠な石油がなくなった時、私達の生活は一体どうなるのだろうか。また、将来石油がなくなったときに備えて、石油の替わりとなるモノの研究・開発はどの程度進んでいるのだろうか。

 私達は、石油の主な用途である発電・燃料・プラスチック製品について、特に石油の代替発電エネルギー・石油の代替燃料・プラスチックの代替品について詳しく調べることにした。

1.石油を取り巻く現状

1)原油産出量

 1997年の世界の原油産出量をみてみると、中東49%・北アメリカ14%・アフリカ8%・旧ソ連7%・ヨーロッパ7%・南アメリカ7%・アジア4%・その他4%、となっている。

 原油産出量では中東が半数近くを占めているが、輸出量では中東以外の石油を輸出している主だった地域(旧ソ連のロシア、北海のノルウェー・イギリス、アジアではインドネシア、アフリカではリビア・ナイジェリア、中南米ではメキシコ・ベネズエラなど)は総数で中東を上回っている。

しかし、埋蔵量を考慮すれば、石油消費国が今後中東以外の石油産出国に供給依存を高めていくことはきわめて難しい。よって、輸出量では2010年に中東が半数を占めると予測されている。

 だが、このことには問題がある。それは、石油産出国と石油消費国が不平等だということだ。主な石油産出地域の産出量における輸出量の割合を見ると、中東:84%・アメリカ:12%・旧ソ連:28%となっている。つまり、現在中東各国は産出した石油の20%しか自国で使っていないのだ。中東各国にとって、石油は輸出資源の中で大きな割合を占めるので、使っていないというより使えないと言った方が正確かもしれない。

 よって、今後中東各国が経済成長すると、自国で石油を発電などでたくさん使うようになり、石油消費国に輸出する量を減らしたり価格を高くしたりすることが予想される。これは紛争の火種になり得ると思われる。

ちなみに、日本の石油の主な輸入先は中東各国が80%を占めている。日本は自国で石油を産出できないため、中東との友好関係を維持することは重要だと言えるだろう。そうしなければ、将来中東各国が経済成長した時に石油が輸出してもらえなくなる可能性もある。

2)可採年数

 1994年の時点で石油の可採年数は45.8年と予想されている。参考までに石炭と天然ガスの可採年数を挙げておくと、石炭は219年、天然ガスは62年となっている。可採年数は計算方法や、未発見の資源がどの程度あると推測するかによって変化するので、必ず45.8年で石油が尽きるとは断言できないが、それでもこのままの状態だと50年後には石油が使えなくなる可能性が濃厚だと思われる。日本はエネルギー資源の80%を輸入に頼っているので、何も対策を行わなければ、悲惨な結末が待っているだろう。

 

2.石油の代替発電エネルギー

 私達の生活はエレクトリックなすべてのもの(工業のためのいわゆるマシンからオーヴンレンジに至るまで)なしでは成り立たない。確かにそうなのだけれど、実をいうとあまり気ののらないテーマだった。なぜならこのテーマにおいては、多くのエネルギーがすでに石油の代わりとしてポピュラーになっていると思うからだ。太陽熱や太陽光、風力、地熱などはもちろん、ましてや原子力エネルギーはかなり前から公に石油の代わりを担っている。いまさらやらなくてもよいのじゃあないかと思っていたとき、とてもおもしろい資料をみた。IEA(国際エネルギー機関)の2010年をシミュレーションポイントとしたさまざまな予想である。

 IEAの予想によると、2010年までに世界のエネルギー需給は50%近く増え、地域ごとではOECD(経済開発協力機構)諸国が30%、旧ソ連・中東欧が6%、発展途上国においては120%もの増加がみられるとされている。これだけのエネルギー需給をこれまでどおり石油でまかなってゆく事はまさかできないだろう、そう思って各エネルギーのシェアの変化についてを見ると、さらにショッキングな内容が載っていた。2010年、化石燃料のシェアはまったく減っていない。今と同じ90%を占めたままなのである。石油・石炭は39%から37%と少なくなっているのだが、その代わりに天然ガスが22%から24%とシェアを伸ばすため相殺された形になっているようだ。石油を何か他のモノに置き換えることが決して生易しいことでないのがわかる。しかし2%とはいえ10年後石油の替わりを果たしうる天然ガスが、さらにそのシェアを伸ばしてゆく可能性はないのだろうか。

 ここでなぜ石油の替わりがなくてはならないのか、替わりとなるエネルギーの条件とでもいうべきものを挙げておきたい。まずは究極的な量の問題がある。石油がいつかは尽きてしまうもので、そしてそれはあと45.8年後かもしれない。つまり石油よりもつエネルギー、もしくは限りのないエネルギーが替わりに必要なのである。次に、石油はオイルショックに顕著にあらわれているように、その価格や供給において国際政治に左右されやすい。さらに最近ではその燃焼による環境への悪影響が国際問題となって、安定性に加えてクリーン性がエネルギーに求められるようになっているのである。

 こうしてみると天然ガスは理想とまではゆかないが、十分なPost・Petroleumとなりうることがわかる。天然ガスの開発状況は他の化石燃料と比べてほとんど進んでいないため、未開発のものがまだ相当あると思われる。そのため地域的な偏りも石油ほど強くはなく、たちまち国際的な需給が逼迫することはまずないだろう。そしてなにより天然ガスは化石燃料のなかでは環境にあたえる悪影響が少ない。IEAの予想を見ても、2010年までに天然ガスの消費は世界で60%近く増え、とりわけ旧ソ連や中東欧をのぞく非OECD諸国、すなわち発展途上国では3倍にもなるとされている。

 とは言うものの、天然ガスは全くのクリーンエネルギーではなく、なんと言っても究極的な量の問題はモラトリアムになって残されたままである。いわゆる本当のクリーンエネルギーが石油の替わりになることはありえないのだろうか。しかし私達の予想に反してそれらのエネルギーは2010年の段階でたった1%のシェアをもっているに過ぎないと予想されており、実用化されているとは言いがたい。その理由としてクリーンエネルギーの3つの課題が挙げられている。まず1つ目に、開発のための長い先行期間が挙げられる。長い年月を経て技術が十分なものになったとしても、生産・輸送・供給・利用にかかわるインフラストラクチャーを作るのにさらに10年はかかってしまう。そのため、さしあたっては石油などに比べてわずかなエネルギーしか得られない。このローリターンが2つ目の課題である。3つ目は、クリーンエネルギーであればあるほど資源の開発と生産にかかるハイコストから逃れられないということである。現在、先進国のクリーンエネルギーの開発は低迷していると言ってよい。日本でも通産省が中心となって1974年に始められた、サンシャイン計画という石油に替わる新しいエネルギーの総合的な開発・研究を2000年までに行おうというプランがあったのだが、縮小傾向がいちじるしい。今日本が重きを置いているエネルギー、それは冒頭で述べたようにすでに石油の代わりを担っている原子力だ。

 それがはっきりとうかがえるのが、政府のエネルギーベストミックス案である。エネルギーベストミックスというのは、エネルギーの安定した供給構造を作るために、特定のエネルギーに依存しすぎることなく様々なエネルギーを適切に組み合わせてゆくことで、日本のように脆弱なエネルギー調達構造を持った国ではとりわけ重要なものである。供給安定性、経済性、環境への影響などを考慮して構成するのだが、政府のだした2010年のエネルギーベストミックスでは、なんと電子力エネルギーが42.7%と半分に近いシェアを占めている。ついでLNG(液化天然ガス)が18.1%、石炭14.7%、水力10.6%、石油が9.7%と設定されている。現在のエネルギーミックス(ベストミックスではない)では、原子力20%、石油がほぼ30%であるのに比べて、明らかに石油の替わりとして原子力をすえているのがわかる。しかしこれでは特定のエネルギー、すなわち原子力に現在の石油以上に依存しすぎており、あまり「ベストミックス」とは言えないのではないか。そのうえ原子力には、廃棄物や原子炉の処理をどうするか、そのための莫大なコスト、放射能もれの可能性など、たくさんの問題がつきまとう。天然ガスなど他のエネルギーに重点を置くべきではないのだろうか。さらに今、新たなエネルギーとしてにわかに注目を集めているものがある。それをもってエネルギーベストミックスを構成する可能性を挙げて、この章を締めくくりたい。

 そのエネルギーとは、先に挙げた3つの課題により、いわば政府から見放されたクリーンエネルギー、ソーラー発電である。ソーラー発電はつい最近になっていちじるしい技術発展がみられ、課題であった1ワットあたり700円というハイコストが、2010年にはなんと1キロワットあたり25円、さらに生産規模の大きさによっては21円にまでさがると言われている。火力発電(すなわち石油による発電)の現在のコスト・11円と比べるとまだやや高いが、ソーラー発電が環境にほとんど影響がないことを考えればあまり気にすることもないだろう。ソーラー発電に対して政府が10円の差を補う環境補助金を設ける、または火力発電に環境税をかけるなどの策をこうじれば、ソーラー発電は完全な競争力を持つこともできる。ではソーラー発電によってどれくらいの量の発電が可能なのか。きちんとしたインフラが整えば、2億700万キロワットはみこめると言われている。このうち一戸建て住宅は7千800万キロワットを占めているが、これは一戸あたり3キロワット発電可能として計算したものである。現在もう発売されている「ゼロエネルギー住宅」はすでに3倍以上の9.9キロワット発電することができ、少なくともすべての一戸建て住宅が2010年までに6キロワットは発電できるようになるだろう。さらに現在、農家が人不足などの理由でもてあましている休耕田にソーラーパネルを敷きつめると、4億4800万キロワットの発電がみこめる。これは休耕田で発電した電気を、農家が工業用・またはマンションなど十分な発電装置を設けにくい集合住宅に売るというシステムで、農家にとっても余った土地で収入を得ることができるため悪い話ではないはずだ。資金などの影響で現在の休耕田の半分しか使うことができないにしても2億2400万キロワットであり、先の2億700万キロワットと一戸建て住宅の発電可能量の倍増分を足すと、ソーラー発電は5億900万キロワットもの発電がみこめることになる。この量ならば2010年の政府のエネルギーベストミックス案で、原子力が占める42.7%を軽く上回るシェアをソーラー発電は得ることができるのだ。しかしその実現のためには、ソーラー発電のためのきちんとしたインフラストラクチャーを整えることが不可欠であり、多大なコストがかかるのは目に見えている。そのコストを考えれば、やはり政府が原子力に重きを置いてもしかたがないのではないか、そう思う人も多いかもしれない。しかし原子力発電に現在の2倍近いシェアを担わせるためには、やはり新たな原子炉を増やす必要があり、政府はそのために多額の資金を投じようとしている。それならば原子力の代わりにソーラー発電にその資金を振り向ければ良い、ただそれだけのことなのではないだろうか。環境にやさしく安全なエネルギーが、私たちの生活を十分に支えてゆけるのであれば、私たちは未来のためにそのエネルギーを選ばなくてはいけないと思う。

 

3.石油の代替燃料

 次に石油の代替燃料になり得る資源は何かを考えてみよう。ここでは主に自動車の燃料の代替物を考えてみた。

 まず1つに電気エネルギーが挙げられる。これを動力源とした自動車の歴史は古く、1930年代から開発が進められてきた。しかし、石油燃料に比べて航続距離が短く、またバッテリー自体が非常に重く、多大な面積を占めるので一般的に普及することは無かった。今後の技術革新が期待される。

 次にアルコール燃料が考えられる。これは従来使用されているガソリンと混合させて使用される。日本でも一部地域で「GAIAX」という名で市販されている。利点としては排気ガス中の有毒物質(CO,SOx,NOx等)を大幅に削減でき、パワー比率もガソリンに比べて落ちる事は無く、高速走行ではむしろ向上するという点である。しかし特殊な加工をした部品を使わないと、アルコールによって腐蝕する可能性や、排気ガスに人体に有害なホルルアルデヒドが含まれているのではないかと言われている。まだ開発途上の段階で売られているのは疑問だと思う。しかし今後、本格的に研究が進めば実用化も考えられるのではないかと思った。

 3つめに太陽電池の使用が考えられる。これも以前からソーラーカーとしての開発が進められている。太陽エネルギーは莫大且つ、豊富であるので資源の枯渇に直面することは太陽が無くならない限りあり得ないので非常に有効であるように思われる。しかし現状では、地上に照射されている太陽エネルギーのごくわずかな量しかエネルギー変換が出来ず、また太陽電池の部品を作るのにもかなりのエネルギーが必要となる。加えて曇りや雨天時などの天候に影響されやすく、安定供給がされないなどの問題もある。暗いトンネル内で停止してしまってはどうしようもないのである。

 これまで述べてきた3つの代表的な代替燃料以外にも、原子力や水素、石炭(これについては後で詳しく述べたい)等を代替燃料とすることも考えられている。しかし原子力を燃料とした場合、事故の時に放射能汚染の危険性があったり、水素をエネルギーにした場合でも爆発の危険性が考えられる。そこで考えられたのが、石油を採掘以外で作り出すという方法である。これから挙げる代替燃料は厳密には石油とは言えないものだが、これまでに実際に開発され使用されてきたものである。

 ブラジルではサトウキビの生成カスからでる廃棄物を燃料の代わりとして用いられていた。南アフリカでは石炭を液化してこれを石油の代わりとして燃料に使用していた。また日本でも、京都でごみ収集車の燃料に天然ガスや家庭用油の廃油を利用している車がある。サトウキビや油は元となる植物を栽培すればいくらでも作る事が出来るので、資源は無限に存在する事となり枯渇の心配も無い。また廃油を利用するのはリサイクルの点でも有効である。

 これまで様々な代替燃料について述べてきたが、どれも現段階では研究段階、もしくは失敗に終っている。しかし本格的に実用化されているものがある。それが次に述べる『ハイブリッドカー』である。ハイブリッドと言う名前が示す通り、ガソリンエンジンと電気モーターを混成した動力を持つ自動車である。基本的には電気モーターをメインとして、ガソリンエンジンを補助的に使用する。低速時には電気モーター、高速時にはガソリンエンジンといった様にお互いの短所を補う事で、高い効率化がされている。ただのガソリン自動車と比べても高燃費率であり、東京、鹿児島間の約1500キロメートルを無給油で完走することが出来る。車と絡んで起こる環境問題に温暖化が挙げられるが、排気ガスが少ないのでクリーン性にも優れている。ハイブリッドカーは同クラスの他車種に比べて幾分高価ではあるが、補助金などの手当ても付けられる。日本ではTOYOTAの『プリウス』とHONDAの『インサイト』が市販されている。

 以上の事を考えると、まだ当分の間は石油を使った燃料に依存しなければいけないと思われる。安全性の問題や効率性の向上に加え、今のガソリンスタンドでの給油に変わる新しい燃料の補給手段をどのように確保するか等の問題も解決しなければならない。残り少ない石油の使用を抑えて、出来るだけ早く新しい燃料の実用化を見つけ出す事が望まれる。

4.プラスチックの代替品

1)プラスチック製品

プラスチックは既に、まるで空気や水と同じように私達にとってあるのが当たり前のものになっていて、普段私達は目の前にあるものにプラスチックが使われているかどうかを意識することはまずないだろう。だが、周囲を注意して見てみると、テレビやビデオ、パソコンやCDROM、ラジカセ、携帯電話、シャープペンシルや消しゴム、スーパーの袋、などといったように、想像以上にプラスチックが使われているものが私達の周りにあることに気づくだろう。

 工業調査会「プラスチックス」によると、日本では1994年にプラスチックは、包装30.2%、家電製品やパソコン等の電気・電子関係12.3%(必ずしも国内で使用されるわけではなく輸出される物もある)、建築10.1%(断熱材、電線、水道・下水道の配管、浴槽、床材、壁紙など家屋のあらゆる所に使用されている)、自動車部品等の輸送関係8.5%、家庭用品8.1%、機械部品4.1%、農業2.2%、家具1.7%、玩具・レジャー1.7%、履物1%、医療機器0.1%、その他20.2%といった用途に使われているようだ。

このように様々な分野で使われているプラスチックだが、そもそもプラスチックとはどのようなものなのだろうか。プラスチックという単語を大辞林で引くと、"可塑性があり、加熱により軟化し、任意の形に成型できる有機高分子物質の総称。天然のものと合成品があるが普通は後者(合成樹脂)をさす。フェノール樹脂・メラミン樹脂・ポリエチレン・ポリ塩化ビニルなど数多くの種類があり、日用品・機械部品・建築材料などに広く用いられる"とある。(「可塑性」とは、水で練った粘土のようにこねたり押し潰したりして形を変えることができるという意味である)

 これだけでは分かりにくいので、プラスチック製品ができるまでの過程について説明したい。

初めに述べたように、プラスチックを作るのには石油のおよそ1割が使われている。石油はたくさんの炭素が長くつながった分子構造をしていて、このままでは利用しにくいので、沸点の差を利用して加熱分解して、重油・揮発油・軽油・灯油・ナフサなどにする。そして、ナフサからプラスチックを作るのである。

  まず、ナフサをさらに加熱分解して炭素が2,3個の長さにし、沸点の差を利用して分離して、プラスチックの原料のモノマー(単量体とも呼ばれる。エチレン、プロピレンなど)にする。モノマーは多くの場合常温で気体や液体で、刺激臭があったりしてそのままでは利用できない。そこで、これを一千万〜数万個重合させて、常温で固体で安定しており生物に無害なプラスチックにする(多くの場合、重合反応が速やかに進むような触媒を加えたり、モノマーを溶かすような液体を使ったり、高温にしたり、圧力をかけたりする)。重合してできたプラスチックは、粉状か高温で溶けた餅のようになったものなので、製品に加工する時に必要な添加剤などを高温で加えてプラスチック材料(粉末のままかペレットと呼ばれる粒)にして出荷される。そして最後に、出荷されたプラスチック材料を加工したり、材料として使ったりしてプラスチック製品が完成するのである。

 つまり、プラスチックはモノマーという小さなパーツを組み合わせてできたもので(レゴのブロックをイメージするのも良いだろう)、プラスチック製品はさらにそれを加工したり材料として使ったりしたものなのだ。

2)石油がなくなった時の対策

 私達の生活はプラスチックなしでは成り立たない。だが、プラスチックを作るのには基本的に石油が必要だ。石油がなくなったらプラスチックはもう作れないのだろうか。

  だが、石油が枯渇し石油からプラスチックが作れなくなった時の対策が全くないわけではない。代替品(生分解性プラスチック)を使う、使用済みのプラスチックをリサイクルする、といった対策がある。

 生分解性プラスチックとは、石油からではなく植物などから作り、自然界の中で生物分解するプラスチックのことである。使用中は通常のプラスチックと同様の機能、性質を持ちながらも、使用後(廃棄後)は自然界(土中や水中)の微生物の働きによって低分子化合物、最終的に水と二酸化炭素に分解される。石油の使用量を減らすという観点からではなく、主にエコロジーの観点から注目されている。本来自然分解されることがないプラスチック廃棄物も微生物に分解(生分解)させて生態系に取り込むことによって、環境に悪影響を及ぼさず、ゴミ問題の解決にもつながると思われる。また、焼却した場合でも熱量が低いため、焼却炉を傷めず、ダイオキシンなどの有害物質が発生しない。

 日本では10社以上の企業が、生分解性プラスチックの研究や企業化を行っている。生分解性プラスチックとして、微生物が生産するヒドロキシブチレート系ポリエステル・植物由来天然高分子(セルロース、デンプンなど)・動物由来天然高分子(エビ・カニの甲羅に含まれるキチンなど)・天然高分子を原料とした合成高分子・もともと生分解性を有する合成高分子ポリカプロラクトン、などが開発されている。

 製品化された生分解性プラスチックの例としては、「オーペルコーンシート」が挙げられる。これは、とうもろこしのデンプンを原材料とし、数種類の生分解性プラスチックをブレンドしてできた生分解性樹脂の軟質系シートで、質感・厚み・強度などは塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン等に匹敵する。今まで塩ビやポリプロピレンなどでしかできなかった柔らかい製品に利用できる。袋状、布状等にも加工が可能で、裁断性、熱接着性、印刷性に優れる。生産および加工ともに、塩ビ製品などを利用している既存設備を使用できるため、従来の生分解性プラスチックよりも低コストでの(それでも通常のプラスチックよりはコストがかかるが)オーペルコーンシートへの切り替え、移行ができる。

 だが、生分解性プラスチックにも問題点もある。生分解性プラスチックは、使用中は通常のプラスチックと同様の機能、性質を持つと言われているが、捨てると容易に自然分解するということは、使用前や使用中に分解はしないまでも劣化することはありえるので、高い耐久性が要求される用途には使用できない。向いていない用途には、食品包装(ラッピング)・電化製品・建築などがあり、また逆に向いている用途には、スーパーの買い物袋・電化製品の梱包材・有効期限が切れると廃棄されるクレジットカード等・歯ブラシ、植木鉢、ボールペン等の筆記具、使い捨て食器類などがある。

 また、生分解性プラスチックの生産にもエネルギーが使われるので、代替すれば石油資源の節約になるとは限らない(生産にソーラーエネルギーを使えば問題はない)。ゴミとして埋め立てた場合の分解生成物が必ずしも明確ではなく、生分解性ということは食物が腐ることと同じことだと考えると、埋立地に埋めた場合メタンガスの発生、地下水汚染、特定の微生物のみ増加する、などの可能性がある。汎用プラスチックの生産コストが100〜150円/kgであるのに対して、生分解性プラスチックは安くても800円/kgと高い。

  以上のような理由もあり、生分解性プラスチックの生産量は日本では約2,500〜3,000tで(プラスチック全体の0.1%程度、1999年度)、通常のプラスチックに比べると極端に少ない。全世界でも3万t程度の生産量しかない。今後は、企業の高性能・高品質な生分解性プラスチック製品の研究・開発と、マスコミの報道によって生分解性プラスチック製品が消費者に認知されることが必要だろう。

 使用済みプラスチックのリサイクルには、大きく分けて「マテリアルリサイクル」と「サーマルリサイクル」がある。

石油が枯渇し、石油からプラスチックが作れなくなった時の対策として使えるのは、プラスチックを物質として再利用するマテリアルリサイクル(material recycle)の方である。マテリアルリサイクルには、廃プラスチックを樹脂の種類ごとに選別してから再生して成形加工原料にする方法・産業系廃プラスチックで実施されている、特定の混合樹脂から直接プラスチックに再生加工する方法・廃プラスチックをモノマーに分解して化学原料にするケミカルリサイクルの3種類がある。ケミカルリサイクルが再び新樹脂を合成できるので理想的だが、技術は確立していてもコストが高いので経済的に実施するのは難しく、成形加工原料に再生する方法が最も多く実施されている。

 また、石油からプラスチックが作れなくなった時の対策としては使えないが、プラスチックを代替熱料として再利用するサーマルリサイクル(thermal recycle)というものがある。これには、廃プラスチックから固形燃料を作る方法と、燃料油に油化する方法がある。固形燃料は、家庭からの廃プラスチックごみや、産業からの廃プラスチックを成形して作る。家庭のごみから、廃プラスチックごみを野菜くずや古紙などと分別しないで混合したままでも固形燃料が作ることができる。燃料油は、廃プラスチックを熱分解して作り、用途に応じて軽油から重油まで作り分けができる。どちらも小規模だと費用がかさむが、最近では企業や地方自治体で実施している所が増えている。

 耐久性があまり要求されない用途には生分解性プラスチック製品を、要求される用途にはリサイクル製品を使うようにし、プラスチックが不足する場合にだけ新たに石油からプラスチックを作るようにしていくのが理想的だろう。

 

5.石油の今後

 タイトルになっている『石油の替わりとなるモノは存在するのか』という疑問に対しては、存在するとも言えるし存在しないとも言える。2章「代替発電エネルギー」・3章「代替燃料」・4章「プラスチックの代替品」の各章の結論をまとめると、「発電エネルギー」に関してはソーラー発電が石油による火力発電の替わりとなる可能性があるが、「燃料」に関しては電気エネルギーやアルコール燃料や太陽電池などの代替燃料だけでは無理で、ガソリンと電気のハイブリッド燃料といったように石油を全く使わないようにするのは難しい。また、「プラスチック製品」に関しては、耐久性があまり要求されない用途には生分解性プラスチック製品が使えるが、耐久性が要求される用途には石油から作ったプラスチックあるいはそのリサイクルを使う必要があり、これも石油を全く使わないようにするのは難しい。

  つまり、石油の替わりとなるモノは存在するが、その替わりとなるモノだけでやっていくことは不可能だと言える。よって、今後石油をどう使っていくかが鍵を握ると言えるだろう。

今後石油をどう使っていくかには、大きく分けて3つの選択肢がある。

  1つ目は、現時点の可採年数は約45.8年だが危機感を持たず、未発見の油田や石油の回収技術の発達に期待して何の対策も行わないで、今後ますます石油に依存していくという選択肢だ。

 2つ目は、現代文明はすでに石油なしでは成り立たないができるだけ石油に依存しないで、エネルギー発電は主にソーラー発電で代替し、燃料はガソリンと電気のハイブリッド燃料を使用し、プラスチック製品は耐久性が要求されない用途には生分解性プラスチックを使用するようにしていくという選択肢だ。

 3つ目は、地域的に偏在していて紛争の火種にもなりうる石油を使わず、エネルギー発電、燃料、プラスチック製品すべてを別のモノで代替するようにするという選択肢だ。

1つ目の選択肢は、次世代に負担を押し付ける身勝手な考え方なので論外だろう。3つ目の選択肢が理想的だと思うが、実現は困難だ。よって、私達は、2つ目の「できるだけ石油に依存しないで替わりのモノを使うようにする」という選択肢がベターだという結論に達した。

 

参考文献

・プラスチックのリサイクル100の知識 1997 東京書籍
・朝日新聞朝刊2000/12/2「論壇」ソーラー発電は経済的に見合う 安場保吉・藤村亮一郎著

参考Webページ

・東京電力「総合的な学習の時間」環境学習ブック「資源・エネルギー」データベース
 http://www.tepco.co.jp/custom/LapLearn/DB/html/index-s.html
 http://150.12.193.211/Hjss98/energy.htm 
・自動車代替燃料
 http://www.asahi-net.or.jp/~wx7s-yngd/h/hwk0134.html
・オーペルコーンシートのページ
 http://www.people.or.jp/~aupair-cornsheet/mainmenu/index.


 

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