Center for the Studies of Higher Education, Nagoya University

 

何が子どもたちを通りへ押しやるのか

寺嶋友広
村瀬絵里奈
武田剛

 

 近年世界中の都市で、路傍で暮らすストリートチルドレンが増え続けているといわれます。通りで暮らす子どもには温かい食事やゆっくり休める家がないだけでなく自分を愛し守ってくれるお母さんやお父さんもいません。このことは通りで暮らす子どもたちの成長だけではなく、その子どもたちのいる社会にも悪影響を与えます。盗みや薬物乱用など犯罪行為として直接的に、また貴重な人材の喪失として間接的に。彼らが通りで暮らしている原因の中には家庭の崩壊、世界的な富の不平等など先進国で暮らす私たちも無関心ではいられないものがあります。

  そこで、私たちはまずストリートチルドレンの実態や彼らが抱えている問題をまとめました。実態の中にはよりストリートチルドレンを理解出来るよう先進国の場合や歴史についてもまとめてあります。次にストリートチルドレンが発生してしまう原因とそれに対して現在行われている解決策を示しました。しかし未だ完璧な解決策はないのでその解決策の問題点も同時に示しました。

1.ストリートチルドレンの実態

・ストリートチルドレンとは

 最も端的に定義するなら「街頭にいる子どものことで、街頭を常駐の住家にしており、適切な保護を受けていないもの」ということになります。街頭を常駐の住家にしているとは、常用に使われていない住居や廃墟なども含めて最も広い意味でとらえています。また、街頭で日雇いや、物売り、物乞いなどをして、その日暮らしをしているという背景もあります。それに、このように定義すれば後に述べるような先進国におけるストリートチルドレンにも当てはまることになります。

・ストリートチルドレンの年齢と数

 ストリートチルドレンの年齢は、いろいろな資料を平均してみると6、7歳から17歳くらいです。現状のところで述べるように、その大半は8〜15歳の男の子である。なぜ男の子が多いかというと以下の3つの事がいわれている。@男の子は家事などの家庭での役割が少ないこと、A働き手となること、B相対的にみて冒険的で行動的であること。逆に、女の子は子守りなど家事の手伝いなど家での働きの期待が大きいのでストリートチルドレンになりにくいそうです。また6、7歳の子どもがもうすでにストリートチルドレンになっているのは、街頭で生き残れる、あるいは家族の収入に貢献できる最低の年齢がほぼ5歳くらいだとからでしょう。ラテンアメリカではストリートチルドレンになっている子どもたちは遅くとも8歳ごろから街頭の暮らしを始めているといわれています。また、近年街頭暮らしを始める子どもの年齢の低下や少女の数の増加も報告されてきています。

 ストリートチルドレンの人数は、ユニセフの推定によると3000万人以上、その他の資料を平均しても3000万から1億人という数になります。このように数に差が出たり、また正確な数が出ない理由は、1つ目に、ストリートチルドレンの数がかなりの勢いで増加していること、2つ目に、カルカッタのように家族中が路傍で暮らしていたりもするためストリートチルドレンとしての問題把握が難しく明確に区別することができないこと、などが言われています。

・ストリートチルドレンの地域分布

 次に地域の分布を見てみましょう。ストリートチルドレンを狭義の意味―すなわち先国に見られるようなストリートチルドレンを含めず、本当の意味でその日暮しを強いられている子どもをストリートチルドレンと捉えた場合―その地域分布は途上国全般となります。もちろん、マニラやカルカッタなどアジアの大都市にも多く存在しますが、特に最も顕著なのは、メキシコ、サンパウロ、リオ・デ・ジャネイロ、ボゴタなど中南米の諸都市です。アジアの儒教の影響を受けているような国では比較的家族の結びつきが強いのに対して、中南米ではキリスト教の影響から「個人」がより強く尊重されるため家族の崩壊がアジアより起きやすくなっているからだと考えられています。

・先進国のストリートチルドレン

 先に述べたように、ストリートチルドレンは途上国全般、特にラテンアメリカで問題にされていますが、広義でとらえた場合、ニューヨークやパリなどでもその存在が確認されています。先進国でのストリートチルドレンは、その実態や原因が途上国のそれとは異なり、慢性的な失業や不景気、困難な住宅事情、都市の崩壊、あるいは異常に高い離婚率がもたらす家庭の崩壊が主な原因となっています。しかし具体的な理由は異なるにせよ、家庭の崩壊というのは、両者に共通するストリートチルドレン発生の原因であるということが言えます。また、先進国では目標の無い暮らしから高度な教育を受けた家庭の子女がストリートチルドレン化している例も少数あります。

  これに対して日本の場合は、家庭の崩壊が見られないわけではありませんが、地域社会の不安定要因とされるような子どもたちはストリートチルドレンになる権利すら与えられず、親の手によって民間の施設に入れられてしまいます。しかし、先に述べたような先進国でのストリートチルドレンの原因、つまり高い失業率や不景気、困難な住宅事情というものは日本にも当てはまる問題であり、日本も十分にストリートチルドレンを生む要因を抱えているのです。

・ストリートチルドレンの現状

 ストリートチルドレンの仕事は主に、靴みがき、洗車、お土産等の小物売り、日雇いの仕事、あるいは売春といったものです。また、よく知られているように、残飯あさりや、物乞い、そして盗みまでもが生活の糧になってしまっているのが現状です。

 次に、ストリートチルドレンはどのような場所で寝ているのでしょう。常用に使われていない住居、廃墟、空きビル、橋の下、建物の出入口、公園など寝られるようなありとあらゆる場所がすべて寝場所になっているようだ。先にストリートチルドレンの定義をしたとき、「街頭を常駐の住家にしており」といったが、街頭が住家なのであり本当の意味での常駐の住家をもっていないことに注意をしなければなりません。

・家族との関係

 ストリートチルドレンは@「街頭で暮らしてはいる」が家族と何らかの結びつきはあるものとA1人ぼっちのものがいます。ここで問題になるのが、Aの方が全体の25から30パーセントであることです。一見すると天涯孤独の子どもたちの方が少ないのはとてもよい事のように思えます。しかし家族がいるにもかかわらずストリートチルドレンになってしまう子どもがいるのはこの問題の原因が家族の崩壊によるものだという事を暗示している深刻なことだと私たちには思えます。

・ストリートチルドレンを歴史的に見てみると

 ストリートチルドレンが世界的なレベルで問題とされ始めたのは1979年の国際児童年いこうであるようです。それ以前のもっと昔にはストリートチルドレンは存在しなかったのでしょうか。実は、1212年の子ども十字軍(1212年聖地回復を叫んで仏の少年エティケンヌが狂信的に提唱年少者だけで聖地に向かった者が5万人とも言われる)失敗後には今のストリートチルドレンと同様に、盗みなどで暮らしている子ども達が多く確認されています。また、18世紀にイングランドで始まった産業革命以来、イングランドや、次々に産業革命がなされていく地域で現代のストリートチルドレンとほぼ同じように暮らす子どもたちが確認されていることから、イギリスやアメリカの産業革命時のストリートチルドレンと現代のストリートチルドレンが似通っているのは、いま発展途上国で進んでいる都市化、工業化への転換が、18世紀にイングランドで始まった産業革命の続きであるのことから当然だとの見方をする人もいます。

2.ストリートチルドレンの問題

  子どもたちがストリートチルドレンになってしまうとどんなことが問題になるのでしょうか。

  一つ目に、子どもたちの基本的人権が守られないことがあります。分かりやすく言い換えるなら、通りで育つ子どもたちは心身ともに健康に育つ機会を奪われているのです。

  具体的な例をいくつか挙げましょう。

  まず、子どもたちは飲食店などの残飯や残り物を分けてもらったり、店の商品を盗んだりして日々の飢えをしのいでいるので、栄養のある物を十分に食べることはできません。通りには麻薬の誘惑も存在します。彼らは自分のつらい生活を忘れようとし麻薬、またはその代わりになり安価に手に入る接着剤に手をだしてしまいます。こうして肉体的に健全な発達ができなくなります。

  また、親などの子どもを適切に保護し温かい愛情を与えてくれる大人がいません。それどころか、本来子どもを守るはずの大人が子どもたちを虐げています。都市の治安を守る役の警察は、通りで生活する子どもたちを保護すべき対象としてみるのではなく逮捕すべき対象としてみます。そのため、子どもたちはただ通りで生活しているというだけの理由で警察に逮捕されたり暴行を受けたりします。社会の一般的な大人たちもそんな警察の行動を支持します。これではストリートチルドレンが大人と信頼関係を築くことはできません。大人との関係だけでなく子どもたち同士でも、都市の生活は流動的なので、持続的な人間関係を育てることは難しくなります。こうして子どもたちは精神的な発達も阻害されてしまいます。

  さらに性犯罪の被害に遭うことは珍しいことではありません。しかし大人たちは路上で暮らしているから被害にあうんだと、犯人を糾弾するようなことはしません。生活していくために売春することも珍しいことではありません。しかし大人たちは、彼女たちは好きでやっているのだからと、その職業から抜け出す手助けはしてくれません。ただ逮捕して牢屋に入れるだけです。この性的虐待は女の子だけの問題ではなく、ときとして男の子も被害に遭い、その時に受けた傷は精神的にも肉体的にもとても深いものとなってしまいます。

3.子どもたちがストリートチルドレンになってしまう原因

  子どもたちがストリートチルドレンになってしまう主な原因は三つあります。

・戦争

  まず戦争です。戦争が原因のストリートチルドレンは戦後すぐの日本にもたくさんいました。それまで、たとえ経済的には貧しくとも親や家族と一緒に暮らしていた子どもたちが、戦争のせいで親が殺されたり、避難する時の混乱で家族と離れ離れになってしまい一人で生きていかざるを得なくなってしまうのです。戦争が終わってから自分の村に戻っても村は焼け野原になってしまっていて知っている人は誰もいないこともあります。また、運良く家族や知人と再会しても、戦火によって生活基盤を失ってしまった大人が、その子の世話をすることを放棄してしまうこともあります。こうして彼らは慣れない路上での生活を余儀なくされるのです。また、彼らは目の前で親が殺されたり、自分自身も何度も殺されそうになっています。これらのことによって出来た心の傷も深刻な問題です。

・貧困

  二つ目の原因に貧困があります。「豊かな都会に行けば自分も金持ちになれるに違いない。」と幻想を抱き、農村から都会に家族で移住してきたり、一人で出稼ぎに出てきたりする子どもは大勢います。今日の食べ物にも困るような貧しい村の子どももいますが、中には自給自足の生活が成り立っていて決して貧しいわけではないような村の子どももいます。こういった子どもたちは都会の物質的に豊かな生活にあこがれたり、テレビや車など貨幣がないと買うことができないものを手に入れるために都会に働きに来るのです。貨幣経済、市場主義が誘発するストリートチルドレンともいえるでしょう。一方で都市で生まれ育ったものの、親の稼ぎが足りなかったり失業してしまったりしたため、代りに働きに出る子どもたちもいます。中には本人に働く気がなく、子どもに労働を無理強いし子どもの稼ぎが足りないと暴力を振るう親もいます。もちろん働きたくても仕事が見つからずやむを得ず子どもを働きに出す親もいます。安い賃金でも文句を言うことなく働くので、雇い主は違法と分かっていても子どもたちを雇うのです。このことは子どもが大人の就業機会を奪ってしまって親は働き口を失い、子どもが家族のために働きに出なければならなくなります。また、子どもたちも学校に行く機会を失い、大人になっても子どもでもできるような単純労働くらいしか仕事がないので貧困から脱却できず、自分の子どもを働きに出してしまいます。つまりここで貧困と児童労働の悪循環が生まれるのです。このように貧困は子どもたちの人生に大きな影を投げかけます。

  しかし貧しい家庭の子どもたちみんながストリートチルドレンになる訳ではありません。むしろ子どもたちがストリートチルドレンになってしまう一番の原因、「家庭の崩壊」、を導くものと理解した方がよい場合もあります。

・家庭の崩壊

  我々の多くは、ストリートチルドレンは親に捨てられてしまった子どもたちだと考えがちです。もちろん、ある日突然親がいなくなってしまいやむなく路上で生活している子どもたちも大勢います。しかしもっと多くの子どもたちは親を捨てて路上に生活しているのです。自発的にストリートチルドレンになっているのです。その直接の原因が家庭の崩壊です。本来居心地が良く子どもたちを守ってくれるはずの家庭が、子どもたちにとって居辛く時として恐怖にさらされる場所になっているのです。例えばお父さんに暴力を振るわれたり、新しいお父さんやお母さんとうまくいかなかったり。そんな家庭に戻るよりは、危険に満ちてはいるけれど、刺激的で仲間も大勢いる通りで過ごした方がよっぽど楽しいそうに思えます。こうして彼、彼女らはストリートチルドレンとして生きていくようになるのです。

  ではどうして彼、彼女らの家庭は崩壊してしまうのでしょう。原因は二つ考えられます。一つ目は先にも書いた貧困です。親に仕事がなかったり、貧しさから抜け出せない苛立ちからアルコールや薬物に逃げたり、子どもや配偶者に暴力を振るったりすることがあるのです。貧困と児童労働の悪循環は家庭の崩壊を手助けするのです。もうひとつは両親自身の家庭の崩壊です。両親自身の家庭が崩壊していると、途中で信頼できる大人に出会い愛情に満ちた人間関係の結び方を体験しない限り、いざ自分に家族ができた場合どのように家庭を作っていけばよいかわからないのです。崩壊した家庭のモデルしか親の中にないため、親は崩壊した家庭しか作れないのです。先進国ではそういう恵まれない子ども時代を過ごした人のためのカウンセリングや自助グループが整いつつありますが、物質的にも余裕のない発展途上国では心理面に対するケアまで手が回らないのです。

  戦争や貧困など個人ではなかなかどうすることもできないことが背景にあるものの、ストリートチルドレンが発生する直接の原因は、家庭の崩壊という最も身近な問題だと言えるのです。

4.現在解決策として行われている事とその問題点

・養護施設へ収容

 ストリートチルドレンの解決策を考えてみると、まずストリートチルドレンを養護施設に収容するということが考えられます。養護施設に入ることで路上での危険な生活から解放されるでしょう。また、多くのストリートチルドレンは十分な教育を受けていないため、ここで一般社会において必要とされる基本的な教育を受けることができるでしょうし、た麻薬などを常用し不健康な子どもにとっては、養護施設は健康な体を取り戻し健全な発育をするための場所にもなるでしょう。

 しかし、すべての養護施設が子どもたちにとって理想的で、ストリートチルドレンの更正に適した環境を備えているわけではありません。例え施設に入れられても、入れっぱなしの状態で適切なケアが行われないこともあります。また、保護されるはずの場所で、施設職員による精神的・肉体的・性的虐待が行われることさえあります。こうなっては養護施設という場所もストリートチルドレンにとっては何の意味も持ちえないものになります。また施設で受けた教育が、必ずしも社会に出て役に立ち、生活の質を向上させることのできるものとは限りません。

・法律や制度の改正

 児童労働の原因の一つには、子どもたちが十分な教育を受けてないことにあります。貧困や家庭の崩壊のために、十分な学校教育と家庭内での教育を受けていないのです。だからストリートチルドレンの解決策の一つとして、法律や教育制度の整備および改善があります。法律を改正することによって児童労働を規制したり、劣悪な労働状況を改善したりすることができます。また高い授業料を払えないために学校へ通うことができないといったことがないように、教育制度を整備しなければなりません。ここで注意しなければならないのは、ただ法律や教育制度に手を加えるのではなく、その国、その地域の現状に合った形にしなければ効果がないということです。そしてその法律や教育制度を人々に浸透させなければなりません。

5.私たちの考えたこと

  戦争は子どもたちとは全く無関係な所で怒ります。中には生まれた時にはもうすでに戦争が始まっていたという子どももいるでしょう。大人たちのエゴとエゴとのぶつかり合いに子どもたちを巻き込み不幸にしてしまうのはあまりにも悲しいことです。しかし現実として戦争はそうそう簡単には無くならないでしょうし、不幸になる子どももなかなか減らないでしょう。よってとりあえず子どもたちやその家族の戦争で傷ついいた心のケアが必要だと思います。先進国も武器や兵隊を輸出するだけではなく、心を癒す専門家を派遣するべきでしょう。もちろんこれは対症療法で根本的な解決にはなりません。しかしとりあえず悲しい思いをしている子どもたちやその家族を救うのが先決で、こうして精神的にゆとりが出てきたなら、通りに放り出される子どもは減るでしょうし、この子どもたちが成長したときに作る家庭の崩壊はふせげるのではないでしょうか。

  家庭の崩壊を経験している子どもたちは大人に対して大きな不信感を持っています。だからそういった子どもたちとこそ大人は向き合う必要があるのです。大人たちは、失われた大人への信頼を回復するため草の根レベルから子どもたちと対話しお互いを理解しなければならないと思います。その上で子どもたちが普通の社会生活を送れるよう職業訓練や基本的な教育を受けることができる環境を用意する義務があります。そして子どもが、親の子どもであり、社会の子どもでもあるのだと考えるべきなのです。

 また、ストリートチルドレンの問題を抱える国々の政府は、一方的に援助を受けるのではなく、自国の現状に合った、最も効果的な政策を実施しなければなりません。それと同時に、国内的に貧富の差を縮めるだけでなく、国際的にも富の不均衡を是正する取り組みをする必要があるでしょう。


参考文献&参考ウェブページ

人道援助独立委員会 著 日本ユニセフ協会 訳
『ストリートチルドレン』 草土文化社 1988
SAVE THE CHILDREN JAPAN http://www.savechildren.or.jp
ストリートチルドレンを考える会 http://www.netlaputa.ne.jp/~child_fn/


 

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