名古屋大学 高等教育研究センター

第72回招聘セミナー 大学のガバナンスと職員 大場 淳 氏 広島大学 高等教育研究開発センター 准教授 2008年10月22日(水) 18時15分〜19時45分 東山キャンパス 文系総合館 7階 オープンホール

■ 講演要旨

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 戦後の日本の大学ガバナンスの基本は教授会自治である。教授会自治は憲法で保障された学問の自由に基づくものであるが、例えば昭和38年の中教審答申に見られるように、大学組織の複雑化に伴って生じる問題点が早くから指摘され、それは昭和40年代中頃の大学紛争で顕在化された。その時に学生や職員の参加を含む参加型民主主義が日本でも検討されたが、定着を見ることはなく、その後の安定成長期の中で大学運営は大きな問題とはならなくなった。

 しかしながら、情報化といった世界的環境変化は日本の高等教育にも変革を迫り、昭和59年の臨教審設置来、日本の大学は設置基準大綱化等の規制緩和を主内容とする改革の中に置かれることとなった。規制緩和(改革)は、平成13年の小泉内閣登場によって拍車がかけられ、国立大学法人化等が実施されて今日に至っている。また、知識基盤経済・社会に対応する科学技術政策が政府を挙げて取り組まれる中で、科学技術人材養成、研究成果の社会還元、世界水準の研究の実施等が求められ、競争的資金拡大等を通じて大学の教育研究に大きく影響を与えている。そして、これらの改革は大学に経営戦略の確立を迫ることとなり、ガバナンスの在り方の全面的な見直しが必須となったのである。

 他方、欧米諸国では、学生大学であったボローニャ大学からの歴史を有する欧州だけでなく、米国においても大学紛争時には学生参加が争点となり、欧州の多くの国で学生・職員の大学運営参加に関する法令整備がなされ、米国でも学生の要求に応じた大学が少なくなかった。参加型民主主義によって大学運営が政治化し、意思決定が困難になったことは、欧州では今日でも見られる課題である。そうした中でも、B. Clarkの研究に見られるような経営的大学が欧州で発達し、1980年代以降は新公共経営(NPM)が各国の高等教育行政で採用され、また、米国ではSlaughter&Leslieが言う「大学資本主義(academic capitalism)」が蔓延することとなった。

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 大学資本主義下では、理事会とともに分担統治(shared governance)の一翼を担う執行部が強化される一方で、もう一つの構成要素である教員の権限が縮小すると言われる(G. Rhoades)。しかし、Tierney&Minorの研究では、非公式な側面で教員は大きな権限を維持し、かつ、執行部・教員間の信頼も比較的厚いとされる。効果的なガバナンスには、リーダーシップ、関係構築、信頼が不可欠であり(A. Kezar)、米国の大学では見えない形でこれらを確保する組織文化が醸成され、分担統治が維持されていると考えられる。蓋し、多様な形が存在するリーダーシップ(例えば参加型もあり得る)が、日本においては一般に執行部の権限強化と受け止められ、競争が促される中で、多くの大学で学内の関係構築ができずに信頼が失われている。そして、選択と集中の弊害は高等教育全般に及び、教育研究活動の弱体化が危惧されているのである(天野郁夫)。

 とは言え、規制緩和─大学の自律性拡大─は時代の要請であって、直接統制の時代に戻ることはもはや不可能である。適正な競争の確保、質保証制度の精緻化、大学間協働の推進、利害関係者の参加、キャリアを重視した人事制度導入等によって、ガバナンス改革を進める必要がある。そして、国はかかる改革を推進・支援することが要請されるが、資源の少ない日本においては競争による排除ではなく、人材(あるいは大学)を育てる政策が求められよう。また、執行部・職員に特に求められるのは学内の信頼関係の構築であり、それはこれまでの研究に照らしても大学の業績改善に不可欠のものである。

 最後に、今日の大学改革は米国の追随と見なされることが多いが、単に制度の違いがあるのみならず、投下する資本の差─高等教育機関への公私支出は対GDP比で日本が1.3%に対して米国は2.9%である(OECD: Education at a Glance 2007)─に鑑みても、米国のモデルの採用は困難であることを指摘しておきたい。職員に関して言えば、今後の在り方として専門職化の必要性が指摘されるが、学内資源の少ない日本で米国並みに各種専門職を配置することは全く不可能であろう。しかし、近年のフラット化を内容とする組織改革によって役割が見直されている中間層の専門職化は事務組織の活性化にも有効であると考えられ、それに加えてキャリアセンターや知財部門といった教育研究支援組織に配置されるようになっている専門職(しばしば教員の身分を有する)の在り方を併せて検討することによって、大学経営の更なる向上を図ることが可能となろう。

■ 開催案内

第72回招聘セミナー

講演題目
大学のガバナンスと職員
講演者
大場 淳 氏 (広島大学 高等教育研究開発センター 准教授)
日時
2008年10月22日(水) 18時15分〜19時45分
場所
東山キャンパス 文系総合館 7階 オープンホール

講演概要

 日本では、近年、質保証制度整備とともに、国立大学法人化を始めとする大学のガバナンス改革が進められてきた。当該改革は大学が社会の要請により適切に対応するようになることを目的とするものであるが、改革によって意思決定の迅速化等の改善が見られる一方で、学内の合意形成に欠けるといった新たな課題も数多く生じている。本セミナーでは、大学のガバナンスと職員の在り方について、外国の例を参考にしながら検討することとしたい。

お問い合わせ
近田 政博
info@cshe.nagoya-u.ac.jp
Tel:052-789-5696
案内用ポスターPDFPDF

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