名古屋大学 高等教育研究センター

第53回客員教授セミナー 学生のラーニングアウトカム向上のための
教育と評価
飯吉 弘子 氏 大阪市立大学准教授 2010年9月16日(木) 16:00〜18:00 東山キャンパス 文系総合館 5階 センター会議室

■ 講演要旨

育成するべき学生のラーニングアウトカム(LO)とは何か?・・・LOすなわち「どういうことができるようになっているか」という学習成果・能力・資質を考えるためには、まず、育てるべき人間像の明確化が重要である。そのための前提となる「21世紀」社会の時代認識を、米国AAC&UやOECDのDeSeCo、中教審、日本産業界の認識を踏まえて考えたところ、「グローバル化」、急速な「変化」、「多様性」、「複雑性」等の共通項を見いだせた。そうした21世紀社会を構築し、産業界的文脈を超える幅広い文脈から生き抜いていける個人像として、"自律的に学び考え続け協働できる人間"像が浮かび上がる。

そして、そのような個人に必要なLOについて、産業界ニーズや各国の学習成果も確認しつつ考えてみると、単に知識・スキルを持っているのみならず、?それらを統合的に活用して問題解決に取組め、?自発的に知的に拡張し続けられる力・姿勢および?行動力、?多様な人々と協働・連携できる力・姿勢等がその主なものとして考えられる。

そのLOをどのように向上させるのか?・・・大学は、それらのLOの向上を、大学の本来的資源(「学問知と思考体系」+課題発見と課題探求の専門家である「大学教員」)を最大限活用し大学という場でしか提供できない教育に立ち返りつつ、正課・課外全ての教育・学習活動を通して担っていく必要があるのではないか。これは、産業社会の文脈を超えた幅広い文脈から物事や自分自身の本質を捉えそのあり方を考え行動していく力を身につけさせるためにも重要である。

とくに、知識だけでなく思考法・方法論・問題意識の持ち方の教育により光を当て、学生にそれらを統合しつつ課題や研究に取り組む機会を与えることが求められる。その際、専門分野・課題や学生の個性・能力の別によって、「学ぶ」「考える」「行動する」ことそれぞれの幅と深みに留意しつつ進めることも重要である。

コンピテンシーを「・・・力」という個々の要素に分けるのではなく、「統合的アプローチ」で捉え、扱う課題の段階性を重視しながら、要所要所での統合的科目やプログラム・卒論などを配置し、効果的な時期・順序で科目も厳選しつつじっくり学ばせる必要もあると考える。そのようなカリキュラム等の組織的工夫とともに個別授業での仕掛け・工夫も有効である。

LOを伸ばす教育の効果をどう評価・チェックしていくか?・・・本発表では、とくに個別授業での仕掛け・工夫の効果の評価のあり方の1つの可能性として、発表者による2科目3〜4年間の検証事例を紹介した。LO向上のための各種工夫・仕掛けと教員の意図に対して、その工夫・仕掛け・意図が学生に実際にどう評価され受け止められているかについて、学生のアンケート分析(含、自由記述の分析)から確認した実践例を提示した。

中でも学生が授業時間外にまとめるレポートの効果が高く、とくに他者に働きかけ(インタビュー)を行いつつ考えるレポートの他者理解・自己理解向上に与える効果が高いことが確認された。一方で、同一教員が行う同一の仕掛けでも科目の目的・扱うコンテンツ・授業方式によって学生の捉える効果に差が見られることもわかり、学生の反応・効果を確認しながら授業の再構成や試行錯誤を続けていくことの重要性が改めて確認された。

■ 開催案内

第53回客員教授セミナー

講演題目
学生のラーニングアウトカム向上のための教育と評価
講演者
飯吉 弘子 氏
(大阪市立大学准教授)
日時
2010年9月16日(木) 16:00〜18:00
場所
東山キャンパス 文系総合館 5階 センター会議室

講演概要

 “自律的に学び考え協働できる人間”の育成は、個人が21世紀社会を構築し産業界的文脈を超える幅広い文脈を生きぬくために重要である。大学も、その育成を大学本来の機能・活動を通して担っていく必要がある。このような個人に必要となる力・資質・姿勢を中心とする学生の学習成果の向上を図るための教育とその効果の評価のあり方を、教育実践研究の具体的事例もふまえて検討する。個別授業でのあり方と共にカリキュラム全体でのあり方も考えたい。

お問合せ先
伊藤 奈賀子
info@cshe.nagoya-u.ac.jp
Tel:052-789-5814
ご参加いただける方は、事前に上記メールアドレスまでご一報いただけると助かります。会場準備の都合によるものですので、必須ではありません。
案内用ポスターPDFPDF

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