名古屋大学 高等教育研究センター

第106回招聘セミナー 「「学習させる大学」における学生の正課外活動」 井下 理 氏 慶応大学総合政策学部・教授 2012年4月27日(金)16:00〜18:00 東山キャンパス 文系総合館7Fオープンホール

■ 講演要旨

「学習させる大学」とは「学生の成長に関心を向ける大学」を意味する。大学は「学生が学習しないのは学生の自己責任である」「学びたい者だけが大学に来ればよい」という姿勢で、みずからの教える責務を放棄することはできない。学生が自分で学ぶことへの関心を育て、意欲を喚起し、自発的に学習するように仕向ける(強制するのではなく)努力と創意工夫が必要となっている。「学習させる大学」というのは、「自動車を作る自動車会社」「治療する病院」「研究する研究所」という表現と同じでいわば当然のことである。だが、その当然のことである学生の学習について、自由と責任という建前のもとにいわば大学の教育責任を軽視していた面もあるのではないか。高い学費の中には、学ぶ楽しさが実感できず、学習意欲がわかない学生に対しても、しっかりと勉学意欲を喚起し、準備状態の不足を補い、広く「学ばせる」指導力・教育力を発揮することが求められているはずである。「学生の成長に関心を向ける大学」は当然のこととして、学生が「自発的に学習する」ことに関心を払って教える工夫している。そうした工夫とは、教授法・学習法開発や各種プログラムの開発にとどまらず、食堂など厚生施設の整備なども含まれ快適な環境の充実も図られてきた。そうして今では、学生の主体性喚起のために課外活動のもつ教育的効果をも視野に入れ始めた。つまり学業面だけでなく、幅広い人間性や社会性の涵養を大学教育の目的に含めて考えるならば、知性のみならず感性、対人関係形成能力、コミュニケーション能力の育成も学習成果に入れて、総体として大学が提供できること、すべきことを検討する段階に来た。そのためには、正課のみならず課外活動も視野に入れた総合的な新しい枠組みの再設計が必要となっている。

そうした流れの中で、従来のように授業を通じての教室での学びだけではなく、正課外活動の意義と効用をどうデザインしなおすか、その方法論が求められている。学生の成長発達に大きく寄与する課外活動や学外活動を大学の教育過程にどのように接続したらより効果的なデザインが可能となるのか。インターンやボランティア活動、さらには、フィールドワークなどの学外での正課活動の機会と幅も拡大している。学生の成長に高い関心をもつ大学では、課外活動が持つ教育力に以前にも増して着目しつつある。社会人基礎力や学士力で目標とされるいくつかの項目は、課外活動を通じて習得される面も多い。一方で正課の学習法が多様化し学外へ、学期以外にも展開する形での拡張が進んでいる。この傾向と呼応して、課外活動の「正課化」といった双方向の活動すら検討段階に入ったと言えるだろう。

課外活動の一層の充実強化に着手するとすぐに注目されがちなのが、「課外活動の単位化」である。しかし、課外活動の教育力は、学生に「単位」と言う「報酬」を与えることでかえって学生たちの自主的内発的動機づけに水を差すことにもなりかねない。まずは慎重な現状分析、実態調査などが求められる。個々の大学、それぞれの学生のニーズに対応した形での学生支援として課外活動と正課活動の包括的な再編・再構成が期待される。

正課と正課外活動との区別の付け方や、課外活動をどのように位置づけ、支援したらよいのか。カリキュラム上の位置づけだけでなく、学生支援の観点からも広くまた多角的な考察とデザインをすることが重要ではないだろうか。

課外活動の支援、活性化の業務を誰が担うのか。教員よりも職員への期待は一層高まるであろう。しかし、それに充当しうる学内の人的資源をいかに確保し、指導力を育成していくことができるのか。SDとFDさらにBDとの連携が欠かせない。

■ 開催案内

第106回招聘セミナー

講演題目
「「学習させる大学」における学生の正課外活動」
講演者
井下 理 氏
(慶応大学総合政策学部・教授)
日時
2012年4月27日(金)16:00〜18:00
場所
東山キャンパス 文系総合館7Fオープンホール

講演概要

学生が学習しないのを自己責任として突き放すのではなく、大学が「学習させる大学」に自己変革しようと努力している。今や大学は、多様な学生の学習意欲を喚起し、学習行動を支援し、さまざまな工夫を重ねる。学習法やカリキュラムの開発・実践的な研究にも力を注いでいる。その主たる照準は、正課学習に限定されていた。しかし大学の教育力は、正課学習だけではない。大学は、正課外活動も視野に収め、それらをいかにデザインし、どう展開すべきか。これからのあるべき姿を共に考えたい。

お問合せ先
info@cshe.nagoya-u.ac.jp
Tel:052-789-5696
ご参加いただける方は、事前に上記メールアドレスまでご一報いただけると助かります。会場準備の都合によるものですので、必須ではありません。
案内用ポスターPDFPDF

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