名古屋大学 高等教育研究センター

第107回招聘セミナー 「学生の学習ニーズの多様化に対応した
教育・学修支援」
居神 浩 氏 神戸国際大学経済学部・教授 2012年5月18日(金)18:30〜20:00 東山キャンパス 文系総合館7Fオープンホール

■ 講演要旨

高等教育のいわゆる「ユニヴァーサル段階」に達した現在、学習履歴の範囲やその理解の程度などにおいて、実に「多様な」学生に対して教育・学修支援を行う必要に大学教員は迫られている。にもかかわらず、多くの大学教員は自分が見たい学生だけを見てしまう傾向にある。見たくない学生も含めて、かれらがどのような状況に置かれているのか、その事実を受け入れるという大前提から、このテーマについては語らなくてはならない。

拙稿「ノンエリート大学生に伝えるべきこと」(日本労働研究雑誌 第602号 2010年) では、今日の大学生の卒業後の進路はかつてのように、事務・営業職等からスタートしながらも、専門職あるいは管理職への昇進を経て、さらに経営者へのキャリアを展望しうるものではなくなりつつあることを踏まえた上で、そうした「エリート」とは異なる「ノンエリート」へのキャリアを歩む若者たちへの学習行為の「レリバンス」を問うてみた。

今回のセミナーでは、教育―学習行為の「レリバンス」の回復は、本田由紀氏が強く主張するところの「職業的レリバンス」の確立を前提としながらも、「学習者が教育システムを離れたのちに、市民ないし家庭人ないし労働者として生きる上で、直接的にはその個人自身にとって武器となり、間接的には社会にとっても有意義であるような、様々な手段や知識」と本田氏みずからが定義されるところの「市民的レリバンス」を強く意識すべきことを主張した上で、具体的な教育・学修支援プログラムのあり方について議論を展開していった。

かれらが教育システムを離れたのちに、「ノンエリート」としてのキャリアを歩むことを 想定したときに大学の間に身につけておくべきは、例えば「学びなおしに効く」学力(杉浦和彦『小・中・高の学びを結ぶ学力20の指標』きょういくネット 2010年)や「職業人としての矜持を守るための権利意識」(上記拙稿では「異議申し立て力」)などではないかと論じてみた。

卒業後の不安定なキャリアを支えるのは「途中で希望が変わり、やり直したいと思った時に、必要な知識や技の学びを支えるだけの学力」(杉浦同上書 14頁)であり、劣悪な労働環境に対して正当な「異議申し立て」を行うには、労働法の知識のみならず、職場内外の様々なサポートの存在を知ってもらい、そして何よりも「これだけは許せない」というある種の正義感を教えることが必要であろう。

大学教員はどうしても自分の「ワーク」がすべて自分の「ライフ」と重なってしまうような「エリート」だけを学習者として前提してしまう。しかし、これからは「ワーク」と「ライフ」をはっきり分けて生きる人たちという意味での「ノンエリート」をも学習者として前提し、かれらが「市民ないし家庭人ないしは労働者として生きる上で」の「市民的レリバンス」を高める方向で、教育・学修支援の具体的プログラムを構築していくべきではないだろうか。

■ 開催案内

第107回招聘セミナー

講演題目
「学生の学習ニーズの多様化に対応した教育・学修支援」
講演者
居神 浩 氏
(神戸国際大学経済学部・教授)
日時
2012年5月18日(金)18:30〜20:00
場所
東山キャンパス 文系総合館7Fオープンホール

講演概要

「ユニヴァーサル段階」における大学の教育・学修支援は、高校までで基礎的教科の普遍的履修が完成するという理念の下での「高大接続」と、学卒後の速やかな職業社会への移行を保障していた「日本的雇用システム」が機能不全に陥っているという認識を持って語らねばならない。

大学教育の現場でさしあたりできることは、教育―学習行為の「レリバンス」の回復であり、特に「職業的レリバンス」の向上を求める声が強いが、本セミナーではむしろ「市民的レリバンス」を高めることを主張してみたい。

お問合せ先
齋藤 芳子
info@cshe.nagoya-u.ac.jp
Tel:052-789-5696
ご参加いただける方は、事前に上記メールアドレスまでご一報いただける
と助かります。会場準備の都合によるものですので、必須ではありません。
案内用ポスターPDFPDF

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