名古屋大学 高等教育研究センター

第44回招聘セミナー 教養教育の今日的課題 組織とカリキュラム 寺崎 昌男 氏 学校法人立教学院本部調査役、東京大学・桜美林大学名誉教授 2004年 11月19日(金) 午後3時 名古屋大学東山キャンパス 文系総合館7階 カンファレンスホール

■ 講演要旨

大学に対する社会的評価が厳しくなりつつある。 2007年には志望者数が定員を下回る大学全入時代が到来する。 その大学に入ることによって学生は何を得ることができるのか、 4年間でどう変わるのかという教育の質がこれまで以上に問われるようになっている。 大学政策は、出口管理などの評価重視傾向(98年の大学審答申)、 国立大学の行政法人化、COEや特色GP・現代GP、大学設置の規制緩和、 高等教育の国際的な商品化など5層にわたって同時進行しつつある。

 その一方で、今日ほど教養教育に追い風が吹いている時はない。 94年に日経連が出した報告書は大学における教養教育の 重要性を大いに強調するものであった。 産業界は人間としての基礎教養をより重視する方向にシフトしている。 このことは専門教育・実学重視であった高度成長期には考えられなかったことである。 立教大学では2年半かけて学士課程カリキュラムを見直し、 新カリキュラムを97年度から導入した (いわゆる有名な「全カリ:全学共通カリキュラム」)。 これまでの学士課程教育の目標は「教養ある専門人」であったが、 これを「専門性に立つ教養人」の育成に転換した。 カリキュラムの構成原理は、目標に基づいて「ひろがり」(scope)と 「順序」(sequence)の2軸で考えた。 また、個別の科目も全面的に見直し、 今日的課題となっている知的領域を「環境、生命、人権、宇宙」の4つに集約し、 高い評価を得ている。

 立教大学での全カリ実践で気づいたことは、 学生にフィールドワークなどの体験型学習をさせることの重要性である。 自らの手足を使って取り組む課題を与えることによって、 学生に社会との接点を見つける機会を提供することができる。 また、自校についての歴史や文化について包み隠さず学生たちに紹介することにより、 学生が自分の大学に誇りや愛着を感じることにつながる。 今の日本の大学は学生についてほとんど知らない。 もっと学生について知るための努力をしてもいいだろう。

 教養教育の組織づくりについては、堅牢さ(stability)、 威信(prestige)、支持(support)の3つからなる「SPSの原則」が 重要だと考えている。 大学職員の育成(SD)にとって重要なことは、 単なる事務処理を行う「事務員」から企画立案機能を担う「職員」になることである。 そのためには、大学に関する知識・教養である「大学リテラシー」を高めるための学習が求められる。

 教員の資質向上(FD)で重要なのは、 第一に授業の導入のスキルを身につけることである。 効果的な導入は授業の学習効果を飛躍的に向上させる。 これは小学校の授業から学ぶところが大きいであろう。 第二に、講義の内容をできるだけ構造化することである。 重要な部分に向けて内容を焦点化する手法などは効果的かもしれない。 第三に、双方向型の授業を開発することである。 これはすでに多くの若手の教員が積極的に取り組んでいる。

 最後にWhiteheadの大学論から私の好きな言葉をみなさんに贈りたい。 「(前略) 大学が存在理由を主張しうるのは、 それが知識と生活の熱情とをつなぐことができるからである。 その課題は、想像力に配慮しつつ学問を通じて若い世代と年長の世代とを 結び合わせることによって、果たされる。 (後略)」