コラム:私の経験したユニークな導入法




 いまから2年前のことですが非常勤講師として出向いていた東京のある国立大学で、授業が終わった後で居残った数人の理系学生に「教え方がうまいと思った先生はいますか」という話題をぶつけたことがあります。入学して2年弱の経験しかもたないためか、限られた選択肢のなかからヒットする授業を見つけるのは難しいなあという顔を相互に確認しながらしばらく考えていました。
そこで一人の学生が「○○先生の数学基礎の授業はうまいというより、楽しみにしているし、教え方も好感がもてる」と言うと、居合わせた一堂が同調した。なぜ楽しいのか、なぜ好感をもてるのかその理由を挙げてもらうと、以下のような内容でした。

1 毎回の講義の始めにA4用紙1枚に自作の俳句とそれを詠んだときの気分や風景・季節感を描写して配付してくれる。その先生は書いた通りに読むだけでその他の余分な解説はしない。数学とは関係ないイントロだが、なぜか毎回楽しみにしている
2 講義では必ずハンドアウトを配り、教科書で省略されている数式の展開部分を丁寧に記述・説明し、論理的なジャンプが必要となる大事な展開部分には必ずアンダーラインを引いて注意を喚起してくれる
3 最終試験ではハンドアウトで強調した大事な点を含めて教えた内容からしか出さない
 後日、受講生からその先生の配付資料を実際に見せてもらいましたが、それはすべて端正な字の手書き文書でした。授業は人柄の部分がありますが、イントロの部分はとくにそれがでるような気がしませんか。
(高等教育研究センター・池田輝政)