コラム:「学生による授業評価アンケート」についての提案




 学生による授業評価は教育改善の方法としてここ数年の間に各大学で急速に普及してきていますが、名古屋大学の全学共通教育については早くから大規模な「学生による授業アンケート」が実施されてきました。この実行力は高く評価されてよいでしょう。
 ところで、「学生による授業評価」という表現はおかしいのでは、と考える先生方がいらっしゃいます。確かに、受講者の回答結果を参考にして授業がうまくいったかどうかを確認し、必要ならば改善をするという意思決定は、その授業に責任をもつ担当教員であり、そしてカリキュラム全体に責任をもつ委員会が行うものです。学生はそのための有益な情報を提供するために参加していることになります。しかしながら、評価プロセスに参加するという意味で「学生による授業評価」なのであって、その意味では「学生による授業アンケート」という表現は「何のためのアンケートなのか」という点で少し曖昧になります。
 評価のためのアンケートであれば、気をつけるべき大事な点は、アンケート項目とその表現です。例えば、「授業中に質問をしましたか?」という項目を、一方的な講義のスタイルにならないように教師が留意するために設定したとしましょう。その場合、「授業中に質問する機会を与えられましたか?」という表現にすれば、教師の責任を問うていることがはっきりします。
 評価の責任主体が誰なのかという点を曖昧にした授業アンケートの設計は、「ためにするアンケート」という悪弊をうみます。それはこの評価プロセスに参加する人達すべてに徒労感をもたらすことになります。そうならないためには、授業アンケートによる評価方法は、シラバスで公約したことがどの程度実現しているかを受講生にチェックしてもらう、という基本にそって行われる必要があるでしょう。ということはシラバスの内容が大事になります。

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学生による授業評価アンケートを行うねらいとして日本で一般的に考えられているのは、次の点だろう。
  1. 個々の授業と教師のスキルを改善するため、
  2. 大学としてのカリキュラム全体の改善のため、
  3. 個々の教員の教授能力を評価するため、
  4. 学生がコースや教師を選択する際の資料とするため、
  5. 学生が自分の受けている教育について自覚的になることを促すため。
 たとえば、学生たちが伝統的に作ってきた「ブラック・リスト」のたぐいは、明確に4)の目的をめざすものであり、その目的に照らしてなかなかよくできている。ひるがえって、われわれが行っているアンケートはどうだろうか?