Teaching Tips at Nagoya


授業の基本
1:コースをデザインする
2:授業が始まるまでに
3:第一回目の授業
4:日々の授業をデザインする
5:魅力ある授業を演出する
6:学生を授業に巻き込む
7:授業時間外の学習を促す
8:成績を評価する
9:自己診断から授業改善へ
10:学生の多様性に対する配慮


5:魅力ある授業を演出する


  • 授業は研究室からすでに始まっている


 授業直前。あなたは今まで何をやっていましたか? 会議を終えたばかりですか? 別の講義が終わって片付けたばかりですか? それとも、締め切り間近の原稿書きに追われていましたか? いずれにしても、気持ちを切り替えて目前の授業に集中しなければなりません。さあ、Let's change the mind!


今日の授業をイメージしよう

 1回分の講義をどうやって演出するかは、研究室での準備次第です。90分間の授業の流れをイメージしてみましょう。受講者を惹き込む話法、メディア機器を使ったり、ハンドアウトを配布するタイミング、工夫ある板書など、効果的な授業を行うためにはさまざまな仕掛けを学んでおくと便利です。この章では、授業の演出方法について説明します。

1) ざっと、頭の中でおさらいしよう
 まず、目を閉じて深呼吸しましょう。次に、その授業の到達目標を明確にして、そこに至るまでのプロセスを頭に描いてみましょう。TAと一緒に段取りを確認してもよいでしょう。

2) 導入のトピックスを決めておこう
 いざ本番となった時にあがらないようにするコツは、教壇に立って最初に話す内容、つまり「導入のトピックス」をあらかじめ決めておくことです。授業のテーマに関係する時事問題のコメントでもいいし、意表を突くようなジョークでもいいでしょう。うつむいた学生の顔を上げさせ、これから「何か興味深い話が聴けそうだ」という予感を彼らに与えることが重要です。あまり深刻に考えず、できるだけフレンドリーな話題を用いましょう。

3) 講義メモを見直そう
 講義メモはもう作りましたか。作った講義メモは、きっとあなたしかわからないような単語の羅列になっていることでしょう。それでいいのです。それらの「記号」をちゃんと解読してつないでいけるかどうか、1〜2分で確認してみてください。


授業直前のリラクセーションとウォーミングアップ

 準備の確認ができたら、あとはリラクセーションとウォーミングアップです。

1)まずリラックスしよう
 野球のピッチャーが登板する時、あるいは指揮者が舞台に上がる時、それぞれ自分に合ったリラックス方法を実践しているはず。たとえば、深呼吸したり、音楽を聞いたり、瞑想したり、散歩したり、方法はさまざまです。別の授業を終えたばかりの時や、会議から戻ったばかりの場合、疲れて気が滅入っていたり、イライラしているかもしれません。気分転換はとても重要です。

2)ウォーミングアップの方法
 ウォーミングアップの方法は、軽く体操したり、発声練習をしたり、人によってさまざまでしょう。大事なことは、自分の「お約束のパターン」をつくることです。

コラム:発声練習をしよう




  • 俳優としての教師


メリハリのある話し方を心がけよう

 授業における教師の行為(話す、書く、聞く、読む)の中で、最も重要なのは「話す」という行為でしょう。上手な話し手でなくとも構いませんが、良い話し手になることはとても価値のあることですし、努力に値することです。自分の話法に自信がなくても、次に挙げるいくつかのことに留意すれば、相当改善できるはずです。

1)テンポと強弱を組み合わせよう
 テンポと強弱を組み合わせれば、いくつかのパターンの話法が可能です。具体的には、@「ゆっくりと、大きく」(授業の最初など、強調したいポイントなど)、A「ゆっくりと、小さく」(リラックスさせたい時、気分転換を図る時)、B「速く、大きく」(学生のテンションを高め、劇的な場面展開をねらうとき)をうまく組み合わせて、受講者の集中力が低下しないように配慮したらどうでしょう。

2)ボディランゲージを活用しよう
 小人数のセミナー形式では、日常的な話し方でも学生に意思を伝えられますが、大人数の講義形式になると、いくらかボディアクションを取り入れないと、退屈かつ貧相に見えます。たとえば、俳優さんの場合、テレビドラマの収録では自然体で演技するのに対し、舞台では濃い目のメイクをしたり、口を大きく開けて台詞を言ったりと、かなりオーバーアクション気味に演技しています。牽強付会かもしれませんが、テレビドラマはセミナー、舞台は大人数の講義に相当するのではないでしょうか。意識の上で、明らかに区別した方がいいでしょう。誤解を恐れずに言えば、講義は一種のパフォーマンスであり、教室は劇場空間のようなものです。そこには、観客(受講者)と一体化して、よいドラマ(授業)を作り上げる楽しさがあるのです。

3)できるだけマイクに頼らない
 大人数の講義をする時、マイクは必要です。ただし、学生側からは「エコーがききすぎて、声が聞き取れない」「音量が大きすぎる」「眠くなってしまう」などの問題点が指摘されています。マイクを使う時は、少し口から離して、明瞭かつゆっくりと話すことが重要です。ボリュームとエコーは最小限に押さえ、話すスピードも落としましょう。また、声がちゃんと聞えているかどうか、学生に確認して下さい。でも、できることなら、明瞭な肉声こそが最良でしょう。優れた話し手ほどマイクには頼らないものです。

4) 学生に顔を向ける
 話す時は、基本的に受講者に顔を向けるようにしましょう。教師が終始うつむいていたり、講義ノートを朗読するだけだったり、自分の世界にこもってしまうことは、受講者に対して「私は諸君には何の関心もないのだよ。義務だから仕方なくやっているのだ」という暗黙のメッセージを発信しているようなものです。教師が思っている以上に、学生は授業に対する教師の姿勢を、実によく観察しています。

5)ポイントを多様な方法で表現する
 授業の中で重要なポイントは、ゆっくりと大きな声で、強調しながら表現しましょう。また、くどくならないように、表現方法を変えて何度も反復しましょう。当たり前のことのように思われるかもしれませんが、「これから言うことはとても重要だ」とか、「この問いに対する一つの答えをこれから言いましょう。とても大切だからよく聞いて下さい。」と言うだけでも、学生は「何だ?何だ?」と注意を集中します。単に声を張り上げるだけではなく、こうしたセリフをうまく挿入することが効果的です。

6)自分なりの講義口調を編み出そう
 個性的な授業を試みるならば、自分独特の講義口調を工夫するとおもしろいでしょう。われわれが日常的に知っているプロの話し手としてはニュースキャスター、バラエティ番組の司会者や漫才師、落語家などがありますが、彼らはみな独特の話法を持っているがゆえに個性的かつ魅力的です。教師もまた一個の「タレント」であると考えるならば、自分の話法を編み出す価値があるかもしれません。

7)時には沈黙も金となる
 学生の私語がうるさい時、強調したいポイントを余韻として響かせたい時など、状況に合わせて沈黙することも授業技法の一つです。いつも喋りっぱなしでは聞いている方も疲れますので、上手に「間をとる」コツを覚えましょう。

コラム:「私の出会った大根役者」


よい板書は何が違うか

 板書は全員が読めるよう、少し大きめ、かつ濃い目に書くようにし、すぐ消さないように気をつけましょう(すぐ消してしまうと、学生はノートを写すことに夢中になります)。最後列の学生から読めるかどうか、最初の授業時に確認してみて下さい。板書では、授業で強調したい内容を、いかに効果的に学生に伝達するかということが重要です。びっしりと板書される先生もいますが、活字で伝達したい情報量が多ければ多いほど、あらかじめハンドアウトとして配布しておく方が能率的です。一方、単語だけを書きなぐる方式だと、それだけ見てもコンテクスト(前後の文脈)がわかりませんので、それらの関係がわかるようにする必要があります。いずれにせよ、口頭での説明と、板書のバランスをとることが重要です。板書によって授業の流れ・テンションが落ちないように留意しましょう。

コラム:黒板を消してから帰ろう


ハンドアウトの機動性を活かそう

 初回の授業で配布するコースパケットと異なり、ハンドアウト(当日の配布資料)では随時必要となった情報を追加して提供することができます。この臨機応変さこそがハンドアウトの長所です。ただし、あまり詳細な情報を盛り込まないようにしましょう。授業に出なければ理解できないようにするためです。


視聴覚メディアを活用しよう

1)OHP
長所:資料をそのままOHPフィルムにコピーするだけです。図表や写真も、コピーするだけで簡単にできます。カラーコピー機を使用すれば、カラーのOHPを作成することも可能です。ハンドアウトを配布すると、学生はつい伏目がちになりますが、スクリーンを使ってOHPで説明すれば、学生の顔を上げさせることができます。しかし、何と言っても一番の利点は、その場で書き込みができることと、何枚も重ねて表示することができることです。この特性をうまく利用することを考えましょう。
短所:スクリーンやプロジェクタを持ち運ばなければならないこと(今や、スクリーンはほとんどの教室にありますが)、いちいち教室の照明を落とさなければならないこと、スクリーンに映る画像の大きさやピントを、手作業で調整しなければならないことなど。

2)スライド
長所:多くの画像データを次々に紹介できる。特にカラー画像を使う時に威力を発揮する。
短所:プロジェクタを用意して、教室まで運ばなければならないこと、事前にネガをスライドフィルム化し(生協でやってくれます)、それらを一枚一枚プロジェクタにセットしなければならないこと。OHPと同様、教室の照明を落として、スクリーンに映る画像の大きさやピントを、手作業で調整しなければならない。

3)VTR、DVD
利用法:録画したビデオをデッキに入れて再生する。
長所:動画と音声を同時に再生できることと、使用方法が簡単なことです。
短所:モニターとデッキを備えていない教室だと、わざわざ器械一式を運ばなければならない。大人数の講義の場合、後ろの学生からは、小さめのモニターだと見づらい。

4) 書画カメラ・実物提示装置
長所:立体物、コピーをとることのできない資料を提示することができる。
短所:事前に操作の仕方をチェックしておかないとすぐには使えないことが多い。まだOHPやスライドに比べると画像が鮮明でないことが多いようです。これを文字情報の提示手段として用いる場合はかなり大きめの字にしておく必要があります。

5)パワーポイント
長所:箇条書きのレジュメを作るような要領で、多くの雛型を利用しながら、美しいカラープレゼンテーション(電子紙芝居のようなもの)を作成できる。音声や写真、図表を取りこむことも可能で、プリント方法も自在に調整できる。
短所:重く高価なプロジェクタとノートパソコンを持ち運ばなければならないこと、1ページ分に記入できる情報量が限られるので、箇条書きスタイルに限定されること。準備にかなりの時間がかかること。

6) SCS(Space Collaboration System)
利用法:SCSは衛星を介して遠隔授業をするシステムです。たとえば、A大学の先生とB大学の先生が事前に打ち合わせをして、同じ時間帯にそれぞれの大学で授業を行い、たとえばA大学の学生がB大学の先生に質問したりできるようになります。名大内でこれを利用できる教室は3ヶ所に限られており、発信局の大型モニターと受信局の大型モニター(受信局が複数の場合、切り替え可能)があります。
長所:異なる大学の教員同士が、共同で授業開発に取り組めること。名古屋大学にはない資料、装置などを用いた授業ができること。
短所:現時点では、このシステムを利用できる教室が限定され、準備に手間がかかる上、本番中の技術的なトラブルが起こりやすいという短所もあります。

SCS利用申し込み




  • 助けを借りる


ゲストスピーカーを招こう

 必要に応じてゲストスピーカーを招くことによって、授業はよりバラエティに富んだものになるでしょう。その際、依頼する内容について明確にしておかなければなりません。通例、ある特定領域についての話を依頼することが多いですが、どこからどこまでを、どのように話してもらうか、事前に打ち合わせをする必要があります。また、受講生に対しても、どういう分野の専門家の話を聞きたいか、あるいはどのような質問をしたいかなど、リクエストを事前に調べておくと、ゲストスピーカーにより具体的な依頼をすることができます。当日は、ユーモアを交えてゲストスピーカーを紹介しましょう。話が一通り終わったら、あなたから率先して質問を投げかけ、ティーム・ティーチング形式にしてもよいですし、学生に質問を促すのもよいでしょう。


TAの力を借りよう

 TA(ティーチングアシスタント)は、教師と学生を結ぶ重要な存在です。いかにTAの能力を引き出すかが、授業の成功を大きく左右します。そのためには事前のトレーニングと打ち合わせが不可欠です。授業がスタートする1〜2週間前に、TAと入念な打ち合わせを行いましょう。どのような授業を目指しているのか、TAの役割は何かなど、具体的に取り決めておきましょう。毎回の授業開始20〜30分前には研究室で事前の打ち合わせをしましょう。また、成績評価や授業の改善点などについて、TAとしての意見を求める自分の授業のモニター役を務めてもらうのもよいでしょう。ただし、TA自身も大学院生ですから、最終的な成績評価を委ねるのは論外です。TAは単に便利なお手伝いさん、コピー屋さんなのではなく、TAとしての職務を果たさせることを通じて、教員はその院生の教育を行なっているのだ。ということを忘れてはなりません。TAを務める院生の研究・教育能力を高めるような職務を考えて与えるようにしましょう。

チェックリスト:TAに依頼できること



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