Teaching Tips at Nagoya


授業の基本
1:コースをデザインする
2:授業が始まるまでに
3:第一回目の授業
4:日々の授業をデザインする
5:魅力ある授業を演出する
6:学生を授業に巻き込む
7:授業時間外の学習を促す
8:成績を評価する
9:自己診断から授業改善へ
10:学生の多様性に対する配慮


2:授業が始まるまでに


  • 本当のシラバスを作ろう


そもそもシラバスとは何ぞや

「教師(著者)は授業(本)の初めに手短に構想や計画を述べなければなりません。どんな教科書が使われるか?どんな題材が取り上げられるか?受講者たちにはどんな条件が前提とされるのか?何回テストがあるか?どのように評価されるか?授業の速度は?先生の名前は?研究室の番号は、電話番号やオフィス・アワーは?学生にこれらの情報を提供するのは、親切なサービスです。」クランツ、『大学授業の心得』


 シラバスは、教師がコースの初めに学生に配布する講義計画のことです。そこには、各回の講義のテーマや、そのために予習しておくべきことがら、課題、評価の方法と基準などを盛り込みます。
 シラバスは教師と学生の一種の契約でもあります。授業もだいぶ進んだ頃になってから、のこのこ学生がやってきて「今日提出のレポートがあるなんて知りませんでした」と言ったとしても、「授業の初めにシラバスを配布して説明したでしょう。ぼくの授業を受講している人はそれに同意の上で参加しているんですよ。」と言うことができます。もちろん逆に、シラバスは契約なのですから教師もそれに沿った仕方で講義を進める義務を負います。学生に「先生が今日はバブル経済の崩壊の原因について講義するとシラバスに書いていたから、わざわざ参考図書を買って読んできたのに、どうしてその話をしなかったんですか?」と責められることにもなります。このようにシラバスは、学生、教師双方が授業の成立に責任を持つように促します。
 きちんと考えてシラバスを作っておけば、毎回の授業で課題を説明したり、説明するのを忘れて授業計画が狂ったりせずにすみます。教師にとってもシラバスはたいへん便利なものでもあるのです。


シラバスを作る意義

  • 学生との契約であるから双方がコースの展開に責任を持つ意識を高める。シラバスがない「学生さん自由にやってちょうだい」型の授業は学生の目には、教師の無関心と無責任の証拠とうつる、という研究がある。
  • 学生が、現在自分たちはコースのどこにいてどこに向かっているのかを知ることができ、基本的な安心感をもつことができる。
  • 学生の教室外での学習活動のガイドになり、それを促す。
  • そのつど課題やその提出〆切などを周知する手間を省く。
  • シラバスを書く作業を通じて、教師はコースのプランをより具体的なものにすることができる。つまり、学生と自分の時間的制約、教材の制約などの観点から、コースにおいて何を捨て何を残すか、コースにおいて本質的なものはなにかを考えることを教師に促す。
コラム:シラバスと講義要綱は別ものだ

コラム:電話帳の謎


シラバスづくりのコツ

シラバスにはどのような情報を記載すべきかはつぎのチェックリストをごらん下さい。
チェックリスト:学生用シラバスに盛り込むべき情報

 よいシラバスを書くための最も効果的な方法は、よくできているシラバスを真似する、というものです。インターネットはよいシラバスの見本の宝庫です。現在ではアメリカを中心として多くの大学教員が自分のホームページを持ち、そこに担当コースのシラバスを掲載しています。自分と専門分野が近い研究者のホームページを訪れてみて、そこのシラバスを見てみましょう。いろいろな発見があるでしょう。また、分野ごとにシラバスの案を提示した書物もたくさん出版されています。

シラバスの一例




  • 教科書を選ぶ



教科書を使うべきか

 教科書選びは頭痛の種です。教科書は適切に用いるならばコースの大きな助けになりますが、コースの制約条件のひとつにもなります。たとえば、ある教科書を選べば、用語の定義や、表記法・記号法はその本に従わざるをえなくなります。教科書の記号法と教室で教師が用いる記号法が異なっていると、学生は混乱してしまいます。
 また、そうかといって教科書を学生に買わせておきながら、ほとんど使わないというのも、学生と教師の信頼関係を大きく損ないます。学生が教科書に関してもつ不満の多くがこの「買わされたけれどあまり使ってくれなかった」という点なのです。学生は週にいくつもの講義を受講しますから、教科書代の負担は馬鹿になりません。どこかで使うかもしれないから、という安易な理由で明確なプランもなしに教科書を購入させるのは慎むべきでしょう。

教科書を導入することの利点
  • 学生が主題全体の構造とその中での現在の位置を確認することによって、コースに統合性と見通しをもたらすことができる。
  • 重要な概念の定義、重要な定理・事実を常に参照するためのglossaryとして役立つ。

 
したがって、教科書を採用する場合にまず教師がすべきは、授業における教科書の位置づけを明確にすることです。

  • 講義を教科書中心にすすめ、教科書を補足する形で講義を行う。
  • 教科書は講義で扱えないがしかし重要な話題を自習するために用いる。この場合、課題を課すなどの何らかの方法で教科書を本当に読ませ、理解したかどうかのチェックを行う必要があるでしょう。
  • 教科書は演習問題のみを利用する。

 これらのうちどの位置づけを教科書に与えるかによって、それに適した教科書の選択基準も変わってきます。


チェックリスト:教科書選びの留意点


教科書は通読しよう

 しかし、何よりも重要なのは、指定した教科書を通読することです。是非はどうあれ、学生は教科書を非常に信頼しています。ですから、教師が教科書と矛盾したことを講義で述べると混乱します。教師は教科書に指定した本のどこに何が書いてあるかを把握し、もし教科書の著者と見解を異にするところがあれば、それを講義において明確に述べておく必要があるでしょう。

コラム:いい教科書をつくろう




  • 講義ノートは改訂を忘れずに


コースの内容を大きく変えたときはもちろんですが、例年どおりの内容の講義をする場合でも講義ノートの改訂は不可欠です。以下の項目に気をつけましょう。
・ 統計資料などをアップデートする
・ 最新の研究成果を盛り込む
・ 実例や喩えなどが古びたものにならないようにアップデートする
・ 講義記録と照らし合わせて、より効果的な事例、比喩などに差し替える
・ 練習問題を前年度と異なるものに差し替える
講義ノートを改訂する作業を通じて教員自身もリフレッシュし、新たな気持ちでコースにとりくむことができるようになります。



  • コースパケットをつくる


コースパケットとは

 Course Packetとは、自分の担当コースを通じて学生が随時必要とする様々な教材を一まとめにしたものです。パケットには次のようなものが含まれます。
  • 学生が予習したり講義中に使用するための教材(論文のコピー、その他の資料など)
  • 課題(練習問題、レポートの指示と執筆のための参考資料)
  • 必要なときは練習問題のヒントや解答
  • 参考文献ガイド
 これらを学期が始まる前に選定し、後に触れるシラバスと連繋させて一まとめにしたものを開講時に配布します。このことにより、いざ開講してから毎日のように教材作成に追われたり、「先週のプリントをください」と要求する学生への対応に追われることがなくなり、かえって効率的に時間を使うことができます。学生にとっても、自分がそのコース全体を通じてどれだけの課題を果たさなければならないかをつねに把握することができます。


パケットづくりのコツ

 パケットは小冊子の形にする、袋詰にするなどさまざまな形態が考えられます。多人数の学生を相手にする場合やパケットの量が多くなる場合などは次のような工夫も可能です。
  • 生協印刷部や書籍部を利用する
  • 原稿をつくっておき、各自に自分の分をコピーさせる
  • ホームページを利用する。HPにダウンロード可能なファイルの形でパケットを置いておき、各自にダウンロードさせる



  • 開講直前のチェックを忘れずに


さて、ここまでであなたのコースの準備は整いました。開講直前にもういちどコースのデザインと準備が完全かどうかチェックをしましょう。次のチェックリストを利用してください。

チェックリスト:開講の準備はできていますか?



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