1:コースをデザインする
2:授業が始まるまでに
3:第一回目の授業
4:日々の授業を組み立てる

5:魅力ある授業を演出する

授業は研究室からすでに始まっている
俳優としての教師
授業の大道具・小道具
助けを借りる
6:学生を授業に巻き込む
7:授業時間外の学習を促す
8:成績を評価する
9:自己診断から授業改善へ
10:学生の多様性に配慮する

 

5章 魅力ある授業を演出する

 

5.1 授業は研究室からすでに始まっている

 授業直前。あなたは、いままでなにをやっていましたか? 会議を終えたばかりですか? 別の授業が終わってかたづけたばかりですか? それとも、締め切り間近の原稿書きに追われていましたか? いずれにしても、気持ちを切り替えて目前の授業に集中しなければなりません。最低限5分でもいいですから、次の授業のために時間をとりましょう。

 

5.1.1 今日の授業をイメージしよう

  1回分の授業をどうやって演出するかは、研究室での準備次第です。90分間の授業の流れをイメージしてみましょう。受講者を引き込む話法、メディア機器を使ったり、ハンドアウトを配布するタイミング、工夫ある板書など、効果的な授業を行うためにはさまざまなしかけを学んでおくと便利です。この章では、授業の演出方法について説明します。

1. ざっと、頭の中でおさらいしよう

  まず、目を閉じて深呼吸しましょう。次に、その授業の到達目標を明確にして、そこに至るまでのプロセスを頭に描いてみましょう。TAといっしょに段取りを確認してもよいでしょう。

2. 導入のトピックスを決めておこう

  いざ本番となったときにあがらないようにするコツは、教壇に立って最初に話す内容、つまり「導入のトピックス」をあらかじめ決めておくことです。授業のテーマに関係する時事問題のコメントでもいいし、意表を突くようなジョークでもいいでしょう。うつむいた学生の顔を上げさせ、これから「なにか興味深い話が聴けそうだ」という予感を与えることが重要です。あまり深刻に考えず、できるだけフレンドリーな話題を用いましょう。

3. 講義メモを見直そう

  講義メモはもう作りましたか。作った講義メモは、きっとあなたしかわからないような単語の羅列になっていることでしょう。それでいいのです。それらの「記号」をちゃんと解読してつないでいけるかどうか、1〜2分で確認してみてください。

 

5.1.2 授業直前のリラクセーションとウォーミングアップ

準備の確認ができたら、あとはリラクセーションとウォーミングアップです。

1. まずリラックスしよう

  野球のピッチャーが登板するとき、あるいは指揮者が舞台に上がるとき、それぞれ自分に合ったリラックス方法を実践しているはず。たとえば、深呼吸したり、音楽を聴いたり、瞑想したり、散歩したり、方法はさまざまです。別の授業を終えたばかりのときや、会議から戻ったばかりの場合、疲れて気が滅入っていたり、イライラしているかもしれません。気分転換はとても重要です。

2. ウォーミングアップの方法

  ウォーミングアップの方法は、軽く体操したり、発声練習をしたり、人によってさまざまでしょう。大事なことは、自分の「お約束のパターン」を作ることです。

コラム:発声練習をしてみたら

 

5.2 俳優としての教師

 授業における教師の行為(話す、書く、聞く、読む)の中で、最も重要なのは「話す」という行為でしょう。上手な話し手でなくとも構いませんが、よい話し手になることはとても価値のあることですし、努力に値することです。自分の話法に自信がなくても、次にあげるいくつかのことに留意すれば、相当改善できるはずです。

1. テンポと強弱を組み合わせよう

  テンポと強弱を組み合わせれば、いくつかのパターンの話法が可能です。具体的には、@「ゆっくりと、大きく」(授業の最初など、強調したいポイントなど)、A「ゆっくりと、小さく」(リラックスさせたいとき、気分転換を図るとき)、B「速く、大きく」(学生のテンションを高め、劇的な場面展開をねらうとき)をうまく組み合わせて、受講者の集中力が低下しないように配慮したらどうでしょう。

2. ボディランゲージを活用しよう

  少人数のセミナー形式では、日常的な話し方でも学生に意思を伝えられますが、大人数の講義形式になると、いくらかボディアクションを取り入れないと、退屈かつ貧相に見えます。たとえば、俳優さんの場合、テレビドラマの収録では自然体で演技するのに対し、舞台では濃い目のメイクをしたり、口を大きく開けてセリフを言ったりと、かなりオーバーアクション気味に演技しています。セミナーはテレビドラマに、大人数の講義は舞台に相当するのではないでしょうか。

3. できるだけマイクに頼らない

  大人数の講義をするとき、マイクは必要です。ただし、学生側からは「エコーがききすぎて、声が聞き取れない」「音量が大きすぎる」「眠くなってしまう」などの問題点が指摘されています。マイクを使うときは、口から少し離して、明瞭かつゆっくりと話すことが重要です。ボリュームとエコーは最小限に押さえ、話すスピードも落としましょう。また、声がちゃんと聞こえているかどうか、学生に確認してください。でも、できることなら、明瞭な肉声こそが最良でしょう。優れた話し手ほど、マイクには頼らないものです。

4. 学生に顔を向ける

 話すときは、基本的に受講者に顔を向けるようにしましょう。教師が終始うつむいていたり、講義ノートを朗読するだけだったり、自分の世界にこもってしまうことは、受講者に対して「わたしは諸君にはなんの関心もないのだよ。義務だからしかたなくやっているのだ」という暗黙のメッセージを発信しているようなものです。教師が思っている以上に、学生は授業に対する教師の姿勢を、実によく観察しています。

5. ポイントを多様な方法で表現する

  授業の中で重要なポイントは、ゆっくりと大きな声で、強調しながら表現しましょう。また、くどくならないように、表現方法を変えて何度も反復しましょう。当たり前のことのように思われるかもしれませんが、「これから言うことはとても重要だ」とか、「この問いに対するひとつの答えをこれから言いましょう。とても大切だからよく聞いてください」と言うだけでも、学生は「なんだ? なんだ?」と注意を集中します。単に声を張り上げるだけではなく、こうしたセリフをうまく挿入することが効果的です。

6. 自分なりの講義口調を編み出そう

  個性的な授業を試みるならば、自分独特の講義口調を工夫するとおもしろいでしょう。われわれが日常的に知っているプロの話し手としてはニュースキャスター、バラエティ番組の司会者や漫才師、落語家などがありますが、彼らはみな独特の話法をもっているがゆえに個性的かつ魅力的です。教師もまた一個の「タレント」であると考えるならば、自分の話法を編み出す価値があるかもしれません。

7. ときには沈黙も金となる

  学生の私語がうるさいとき、強調したいポイントを余韻として響かせたいときなど、状況に合わせて沈黙することも授業技法のひとつです。いつもしゃべりっぱなしでは聞いているほうも疲れますので、上手に「間をとる」コツを覚えましょう。

コラム:クラス規模は授業に影響する?

 

5.3 授業の大道具・小道具

5.3.1 メディア機器に気をつけろ

  OHP、ビデオプロジェクター、パワーポイントなどさまざまな視聴覚メディア機器は、うまく利用すると授業の効果を高めるのに役立ちます。しかし、これらを使いさえすればよい授業になるというものではありません。たとえば、OHPやパワーポイントは、お互いに高度な背景知識を共有している研究者同士が集まって行われる学会発表などで、短時間のうちに効率的に情報を伝えるにはとても優れたメディアでしょう。しかし、授業は学会発表ではありません。研究者を相手としたプレゼンテーションに有効な方法が、ただちに背景知識の量と理解力に大きな差のある学生に対するプレゼンテーションにも適切であるとは限りません。以下のような、メディア機器の意外な落とし穴に十分配慮しましょう。

  • OHPやパワーポイントなどを多用した授業は、どうしてもスピードが速くなりがちです。このため、学生に理解し消化するための時間的余裕を与えないまま、授業だけが先に進んでしまいます。
  • OHPやパワーポイントなどで用意した教材は、板書とは違って教室の広さなどに合わせて臨機応変に大きさを調整し、後ろの座席の学生にも見やすくするということが案外やりにくいものです。
  • メディア機器によって提示された情報は、学生が授業後に利用することができません。グラフや複雑な図表を見ながら話を聞いていて、そのときはよくわかっても、学生があとになって自宅で復習をしようとしたときには、それらのグラフ、図はもう失われてしまっています。
  • 視聴覚機器のなかには、部屋を暗くして利用するものもあります。このため、学生がノートをとることができなかったり、眠くなるなどのマイナス面が生じます。
  • ビデオ教材などは、あらかじめどこに注目してみたらよいかという適切な指示なしに漫然と見せてしまうと、学生はどこをどう見たらよいのかわからないまま鑑賞してしまいます。この結果、授業が散漫で、ポイントのないものになってしまうかもしれません。

 

5.3.2 黒板とハンドアウトを見直そう

  というわけで、最新鋭の視聴覚メディア機器に頼りっぱなしというのはやや危険です。黒板・ホワイトボード、ハンドアウトの配付といった、「原始的」に思える方法を見直して、その有効な活用を考えましょう。この場合、たとえば、次の点に留意することが重要です。

  • 板書の色、濃さ、大きさに気を配る。ときどき、後部座席の学生にも「読めますか」と確認することを忘れずに。
  • 黒板に書いたことをすぐに消さないように。すぐ消してしまうと、学生は黒板を写すことだけに必死になります。
  • ホワイトボードは反射、マーカーの細さ、インク切れといった要因で、黒板より見にくいものになる傾向があります。ホワイトボードの設置された教室を使うときは、これらの点に十分注意しましょう。
  • 単語だけを羅列的に板書するのではなく、授業のコンテクストがわかるように、なるべく短文の形で、それぞれの言葉の関係がわかるように工夫しましょう。

 ハンドアウトの配布は、黒板やメディア機器の欠点を補う有効な手段です。たとえば、

  • あまり細かな証明や、長い引用などを黒板に書きなぐるというのは感心しません。証明の方針を黒板を使って説明し、細部はハンドアウトを使ってたどるといったやり方が理解を深めます。
  • ハンドアウトは機動的です。コースの展開の中で随時必要となった情報を追加して、そのつど提供することができます。
  • ハンドアウトは保存性があります。これがハンドアウトの最大の長所と言ってよいと思います。手元に置いておいて、学生に復習してもらいたい情報、課題に取り組む際に利用してほしい統計資料やグラフ、図表、地図などは、ぜひハンドアウトにまとめて配布するのがよいでしょう。
  • ハンドアウトと他のメディアと組み合わせて使うことによって、効果はずっと高まります。たとえば、授業では図表をプロジェクターで投影し、それに注目してもらって話をしたとしても、同じ図表を同時にハンドアウトに印刷して「同じ図がハンドアウトにあるから、あとで見たいときにはそれを見てね」と指示します。このことによって、それぞれのメディアの欠点を補うことができます。
コラム:黒板は消して帰ろう

 

5.4 助けを借りる

5.4.1 ゲスト・スピーカーを招こう

  必要に応じてゲスト・スピーカーを招くと、授業はよりバラエティに富んだものになるでしょう。その際、依頼する内容について明確にしておかなければなりません。通例、ある特定領域についての話を依頼することが多いですが、どこからどこまでを、どのように話してもらうか、事前に打ち合わせをする必要があります。また、受講生に対しても、どういう分野の専門家の話を聴きたいか、あるいはどのような質問をしたいかなど、リクエストを事前に調べておくと、ゲスト・スピーカーに、より具体的な依頼をすることができます。

 

5.4.2 TAの力を借りよう

 一部の授業では、TAと呼ばれるアシスタントの力を借りることができます。TA(ティーチングアシスタント)は、教師と学生を結ぶ重要な存在です。いかにTAの能力を引き出すかが、授業の成功を大きく左右します。そのためには、事前の打ち合わせが不可欠です。授業がスタートする1〜2週間前に、TAと入念な打ち合わせを行いましょう。どのような授業をめざしているのか、TAの役割はなにかなど、具体的に取り決めておきましょう。毎回の授業開始20〜30分前には、研究室で事前の打ち合わせをしましょう。

  また、成績評価や授業の改善点などについて、意見を求めたり、授業のモニター役を務めてもらうのもよいでしょう。ただし、TA自身も大学院生ですから、最終的な成績評価をゆだねるのは論外です。

  TAは単に便利なお手伝いさん、コピー屋さんなのではなく、TAとしての職務を果たさせることを通じて、教師はその院生の教育を行っているのだ、ということを忘れてはなりません。TAを務める院生の研究・教育能力を高めるような職務を与えるようにしましょう。

チェックリスト:TAに依頼できること