Center for the Studies of Higher Education, Nagoya University


フィールドワークのすすめ

−ライフヒストリー(個人史・生活史)手法を活用した事例−

木下享子(国際理解教育プログラム事務局)

はじめに
本発表の目的は、2点である。一点目は、研究方法の1つとして、文献から情報を得る方法に止まらず、自ら現場に出て調査するフィールドワークについて簡単に紹介することである。特に、なぜフィールドワークが必要なのかという点に発表の焦点を絞りたい。そして二点目は、フィールドワークをどのように行うのかを実例を用いて紹介することである。この実例は、発表者がタイ留学中(1998年5月末から1999年5月中旬まで)に行ったライフヒストリー手法を用いたフィールドワーク を取り上げる。なお、ここで言うフィールドワークは、広義的に「現地での調査」と定義する。また、ライフヒストリーとは、「インタビューという相互作用をとおして生み出された口述の自伝的語り」[中野卓・桜井厚(編)1995:9頁]と定義する。
 
1. なぜフィールドワークか

なぜならば、
1・書物に書かれていることが信じられないから(本当かどうか確かめたいから)
2・書物に書かれていることが古い情報であるから
3・書物に書かれていないことで知りたいことがあるから
4・(旅をするのが好きだから)

たとえば、
私の修士課程での研究「タイにおける不法就労者問題の現状」は、日本ではまだ見られなかった 上記4 → 先行研究なし → でも研究したい → 現地で自ら調査するしかない
また、現地タイにおいて当研究を散見できたが、いづれもデータが疑わしく、書かれていることが信じられなかった 上記1 → 真偽を確かめたい → 自らデータ集めする

2・フィールドワークではどのように調査をするのか

  まず、結果的に得たい事を的確に調査できる「手法」を探す
手法は、
観察、参加、聴き取り、サーベイなど様々である
たとえば、
目的:不法就労外国人がなぜタイにやって来るのかについて調べる
手法:「聴き取り調査」‐当事者である不法就労者に直接聞く
しかし、
実際に調査をしてみても、用いた手法では目的が達成できないこともある
たとえば、
不法就労者に突然「なぜタイにやって来たのか」と聞いても、
・なぜ調査者がそのようなことを知りたいのか理解できず答えてくれないない。
・ なぜだったのか、突然聞かれても思い出せないので、適当に答える。
そこで、
ただ質問をするという聴き取り方法から、対象者(以下インフォーマント)を数名に絞り込んで 、彼ら自身に出生から現在までに起きた一連の事件や重要な出来事について語ってもらう、ライフヒストリー法という聴き取り調査に変更する。

3・聴き取り調査での留意点
大切なことは、インフォーマントの貴重な情報(人生や想い出等)を伺っているという姿勢
→時間、貴重な個人情報などを提供していただき、その情報を私も共有させていただ
いているということを考慮した上での、時間配分(長時間拘束しない、相手が確実
に対応してくれ易い時間)、質問の仕方(誘導尋問、強制尋問など)、質問内容(相
手が話したがらないこと、プライベートなことなど)などの配慮(とにかく自分勝
手な態度をとらないこと!)
インフォーマントの立場を把握した上での適切な対応
→法的に認められていない立場である、体調がよくない、字が読めない、自分が話している
言葉や単語が理解できない、忙しい等
 →カメラを持っていて写真を撮らない、長時間拘束しない、字を読ませようとしない、
 難しい単語を使わない、相手が理解できない言語を使わない
インフォーマントの話すことを一度だけで鵜呑みにしない
→もしかして、インタビュアーのことを警戒して偽りを言っているかもしれない、
 本当のことを言えない状況があるかもしれない
 →何度も足を運ぶ、相手が気軽に話せる内容から話しはじめる、相手から情報を引き出す  
    ばかりでなく、自分が提供できる情報がある場合は提供する(調査者とインフォーマン
    トとの信頼関係を築く:ラポール構築)

参考文献
佐藤郁哉 1992『フィールドワーク―書を持って街へ出よう』新曜社。
谷富夫(編)1996『ライフヒストリーを学ぶ人のために』世界思想社。
中野卓・桜井厚(編)1995『ライフヒストリーの社会学』弘文堂。
L.L.ラングネス、G.フランク著1993『ライフヒストリー研究入門―伝記への人類学的アプローチ』(米山俊直、小林多寿子訳)ミネルヴァ書房



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