名古屋大学 高等教育研究センター

第33回客員教授セミナー 危機に立つ博士学位 クリスティーン・ハルス 氏 豪・西シドニー大学 2006年 8月4日 (金) 午後4時〜午後6時 名古屋大学東山キャンパス 文系総合館7階 オープンホール

■ 講演要旨

 豪州、米国および英国における博士学位をめぐる昨今の議論から、以下の6つの懸案事項が抽出される。それは、1.博士課程の中退率の高まり、2.学位取得にかかる期間の長期化、3.学位の質に対する懸念、4.学位取得者の増大、5.学位取得者の雇用問題、6.プログラムに対する博士課程学生の不満である。

 また、博士課程の「大衆化」、知識経済や認識論的な変動、競争的環境・大学法人化・消費者主義への移行、博士学位の多様化、質の保証への注目などの局面に、従来の博士学位や新しい種類の博士学位に関する変化が見受けられる。

 こうした現象を目の当たりにし、博士学位自身が危機にさらされているという主張が聞こえてくる。しかしながら慎重に耳を貸せば、それらの主張は往々にして、「博士課程の保持率と達成率の低下はここ最近の傾向である」、「博士学位に関する問題は近年出現したものである」、「博士学位は固定的で不変である」、「博士学位は世界中どこでもほとんど同じである」などの誤った認識に基づいていることが認められるのである。総じて、博士学位の危機に関する主張は、1960年代以降の大学の変化に関する理解不足や、博士学位の特性に関する誤解や誤った仮説に依拠しているといえる。


 博士学位がおかれている問題状況を正しく把握することに努めながら、博士課程のプログラムを再構築することが求められよう。将来の方向性としては、博士学位の取得をめざす学生とその指導者といったこれまでの二元的なとらえ方から、より教育学の理論にそくした指導プログラムの開発や、欧州のボローニャプロセスにみられるように、国際的に共通した博士学位の水準の設定などが志向されるだろう。博士学位の未来に横たわるこれらの課題の数々は、まさに現在の博士学位が急激な変化の真っただ中におかれていることを物語っている。

■ 開催案内

第33回客員教授セミナー
危機に立つ博士学位

クリスティーン・ハルス 氏
(豪・西シドニー大学)

日時:2006年 8月4日 (金) 午後4時〜午後6時
場所:名古屋大学東山キャンパス 文系総合館7階 オープンホール

講演概要
 今日、博士学位は危機にさらされているのでしょうか? 本報告では、大学、ビジネス界、政府の指導者らにおいて展開されている博士学位をめぐる昨今の議論を検討します。とりわけ、豪州、米国および英国における従来の博士学位や新しい種類の博士学位に関する最近の変化について考察し、これらの変化に影響を与えた政治的・経済的要因を分析します。いまや、21世紀において博士学位が意味するものの根本的なとらえ直しがせまられているのであり、こうした再概念化が教育学や博士課程教育の実践に重要な影響をもたらしているのです。博士学位がひとつの国際的な資格であり、大学がグローバルな社会や市場のなかで機能している以上、本分析から得られる示唆は世界各地において有効だといえるでしょう。

言語:英語(通訳はありません)

お問い合わせ: 夏目 <natsume@cshe.nagoya-u.ac.jp> (tel:052-789-5693)

※セミナーに出席を希望される方は、セミナー当日までにseminar@cshe.nagoya-u.ac.jp宛へご連絡下さい。(準備等の都合のためであり、必須ではありません。)セミナーは研究者、教育関係者、教育機関の事務担当者、学生(大学院生・研究生・学部生)、社会人など多くの方の参加を歓迎しております。また、セミナー開催情報メールサービスも是非ご利用下さい。

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