名古屋大学 高等教育研究センター

第74回招聘セミナー 大学職員の能力開発をいかにすすめるか 立命館大学大学行政研究・研修センターの取り組みから 近森 節子 氏 立命館大学 大学行政研究・研修センター 次長・専任研究員 2008年12月8日(月) 18時15分〜19時45分 東山キャンパス 文系総合館 7階 オープンホール

■ 講演要旨

photo01

 立命館大学は、2005年4月に大学行政研究・研修センター(以下、センターと略)を創設した。目的は、(1)職員の組織的・戦略的な養成、(2)大学行政に関する研究、(3)大学アドミニストレーター養成大学院の創設である(ただ、大学アドミニストレーター養成大学院の創設については構想段階であり、実現には至っていない)。

 センター創設の背景には、社会の大きな変化の中で、大学に求められている役割に比して職員の力量が圧倒的に不足しているという危機感があった。背景として、一つは大学間競争の国際化、少子化、国の高等教育に対する財政支援の転換が、また一つは、大学職員業務の高度化・専門化と業務の領域の拡大がある。このような背景から、高度で専門的な能力が大学職員に求められている現状で、これまでのようなOJTによる能力開発だけでは間に合わず、組織的・戦略的に能力開発に取り組む必要性が高まっていた。

 センターはセンター長と3名の専任研究員、兼任講師、この他に幹部職員を講師として運営されている。センター創設時には、センター長には理事長が就任し、専任研究員として幹部職員を配置、センターは職員の手づくりによって立ち上げられた。

 大学幹部職員養成プログラムの獲得目標は3点。(1)急速に改革がすすむ今日の高等教育の政策動向やトレンドについて第一線の講師から学ぶ、(2)立命館大学の幹部職員から、学園の到達と課題、展望を学ぶとともに、全学園的視点で今日の学園課題を理解する視点を養う、(3)職場の具体的な課題を政策提起にまで高める政策立案能力を鍛えることである。

 プログラムは毎週金曜日の13:00〜19:30の時間帯に、計4コマの講義を開講している。内容は、実態分析に基づいた政策提起をする上で必須の「調査設計」(前期)「統計解析」(後期)、立命館の幹部職員によるリレー講義で立命館の第3時長期計画(1985年)以降の到達と課題を学ぶ「大学行政論I」(前期)、文部科学省等外部から講師を招いて今日の高等教育の政策動向やトレンドを学ぶ「大学行政論II」(後期)、そしてこのプログラムの特徴である職場の具体的な課題を政策提起にまで高める「政策立案演習I・II」により構成している。受講者はそれぞれ「職場で解決を迫られている課題」「職場の積年の課題」「学園の中期計画上の課題」からテーマを抽出して研究テーマを定め、政策論文の執筆に取り組む。学術論文の手法を借りて政策論文を書き上げるもので、職場の課題を解決しつつ、政策立案の手法を身につけるという極めて実践的な教育を重視している。

 受講対象者は上限を18名として、30歳前後の将来の幹部候補職員が上司の推薦を元に選抜される。プログラムには他大学からの聴講生も受け入れている。

 プログラムは、受講生個人ではなく職場ぐるみの取り組みとすることを重視しており、例えば、受講生の政策論文の公開審査・表彰に際して、論文のプレゼンテーションには上司が同席し、サポートコメントをすることになっている。

 プログラム研修の効果検証は、受講生アンケート、上司アンケート、および聴講生・学外講師による外部評価によって実施している。上司アンケートからは、受講前後で研修生に行動変容が見られることが明らかになっており、研修の効果を裏付けている。これまでの検証の結果から、研修を通じて開発された職員の能力として、(1)高等教育への広い視点とその中で自大学の位置を考える視点、(2)全学園課題への理解とその中で自らの仕事の課題を考える視点、(3)職場の課題を抽出し実態分析に基づいて解決のための道筋を考え政策化する力などが挙げられている。

 「政策立案演習」では、終了後、政策を具体化することを求めているが、受講生が政策論文の中で立案した教育系の政策が、実際に大学の正課教育プログラムとなった事例がこれまでに2件ある。教育系の政策立案は、これまで教員が担っていた教育・研究の政策検討や立案という新たな業務領域に新しい業務の範疇を開拓するという側面も持っている。プログラム修了は課長昇進の要件の1つでもあるため、プログラム修了者が課長・課長補佐への登用される事例も多い。例えば、2005年度の修了者は課長補佐へ4名が昇進、課長へ5名が昇進している。

 プログラム修了者はその後、大学院へ進学したり、1年間の海外研修に派遣されたり、職員共同研修チームのリーダーとなるなど、修了後も継続的に学習に取り組んでいる。このような職員が自己学習に積極的に取り組む風潮は、職場の活性化につながっており、立命館大学の職員組織を学習する組織に変える契機ともなっている。

photo01

 もちろん、職員の能力開発という点で、このプログラムがすべてを満たすものではない。このプログラムでは職員の政策立案能力にしぼって鍛えているが、課題の抽出、調査・分析、解決策の提示、実行という政策立案と具体化する能力は、職場を超えて共通に求められるいわばゼネリックスキルであり、すべての職員に求められる仕事の能力ではないか。

 最後に、職員の強みは現場にいること。現場には解決を迫られている課題がたくさんある。これを解決する中で、自らの力と自信をつけつつ、また組織の課題も前進することになる。教員とは異なる職員だからこその視点をもって、それぞれの大学改革に力を発揮されることを期待して、私の報告を終わりたいと思います。ありがとうございました。

■ 開催案内

第74回招聘セミナー

講演題目
大学職員の能力開発をいかにすすめるか―立命館大学大学行政研究・研修センターの取り組みから
講演者
近森 節子 氏 (立命館大学 大学行政研究・研修センター 次長・専任研究員)
日時
2008年12月8日(月) 18時15分〜19時45分
場所
東山キャンパス 文系総合館 7階 オープンホール

講演概要

 2005年4月、立命館大学は大学行政研究・研修センターを設置し、「大学幹部職員養成プログラム」に取り組んできた。30歳前後の将来の幹部候補を対象に開講されている同プログラムの最大の狙いは、現場の課題を抽出し、調査分析し、解決策を立案するプロセスを通じて、高いレベルの政策立案能力を獲得させることにある。上司を巻き込んだ実践的な研修を通じて、職員はどう変わったか。一私学において、組織的・戦略的にすすめられている職員の能力開発について報告する。

お問い合わせ
夏目 達也
info@cshe.nagoya-u.ac.jp
Tel:052-789-5696
案内用ポスターPDFPDF

PDFファイルをご覧になるにはAdobeReaderが必要です。 AdobeReaderは、Adobe社AdobeReaderダウンロードサイトからダウンロードできます。
Get AdobeReader