名古屋大学 高等教育研究センター

第75回招聘セミナー 若者の人間関係と公共性 浅野 智彦 氏 東京学芸大学 准教授 2009年1月30日(金) 16時00分〜18時00分 東山キャンパス 文系総合館 7階 オープンホール

■ 講演要旨

 若者の対人関係は彼らの公共性に対してどのような関係をもつのか。これがこの報告で考えてみたい問いである。公共性という概念については膨大な議論の蓄積があるが、ここではごく簡単に次のように定義しておく。

前提の共有をあてにできないような他者との間でコミュニケーションを行ない、必要に応じて適切な協力関係を築くことのできるための作法
今日の日本社会が多様化と流動化によって特徴づけられるとすると、このような意味での公共性はますます重要なものとなる。なぜなら、共同で解決すべき問題が山積する一方で、協力し合わねばならない相手はますます異質なものとなっていくからだ。

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 若者論においてこのような異質な他者との関係が論じられるときにしばしばとられてきた論法は公私のゼロサムゲーム論とでもいうべきものだ。すなわち、若者は私的な関係に没入しそこにエネルギーの大半を注ぎ込んでいるために、公的な領域での活動が不活発化する、というのである。はたしてこのような見方がどの程度妥当なものなのか、調査データをもとに検討してみたい。

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 第一に注目するのは、公的領域の中でも特に経済的な参加に関係する就職や進路に関する意識である。京都大学高等教育研究開発推進センターの行なった調査データ(対象は全国の大学生)をもとに分析してみると、大学生の進路意識の高さや将来設計の明確さは、友人関係を重視している度合と相関していることがわかる。

 第二に注目するのは、社会的・政治的活動にかかわるいくつかの行動や態度だ(一般的信頼、政治的なコミュニケーション、政治参加、政治的関心、異質な他者への寛容度など)。私たちの研究グループが行なった調査(対象は東京都杉並区在住の16歳から29歳の男女)のデータを用いて分析してみると、それらの項目と関連する二つの特徴が浮かび上がる。一つは、(社会関係資本論においてしばしば言われてきたように)趣味的な集団・組織への参加(特に複数の集団への参加)が社会的・政治的参加の高さと関連しているということ、もう一つは、親しい友人の数が社会的・政治的参加の高さと関連しているということだ。

 以上のことをふまえて最初の問いに答えるなら次のようになろう。第一に、自発的結社の中で得られる人間関係は公共性とプラスに関係する独特の性質を持っている。第二に、親しい友人のような親密な関係は公共性とプラスの関係にある。してみると親密圏は公共性を阻害するどころか、むしろ公共性を育成する鍵をにぎっているかもしれないのである。

■ 開催案内

第75回招聘セミナー

講演題目
若者の人間関係と公共性
講演者
浅野 智彦 氏 (東京学芸大学 准教授)
日時
2009年1月30日(金) 16時00分〜18時00分
場所
東山キャンパス 文系総合館 7階 オープンホール

講演概要

 本報告では、今日の若者の公共性について社会関係資本論という考え方を用いて検討する。一般的に欧米の研究においては若者が公共的な意識や態度を身につけていくのは自発的な結社(地域の諸団体やボランティア団体あるいは趣味に関わる組織等々)への参加を通してであるとされているが、日本の若者の場合には状況がやや異なる。彼らはそういった諸団体・組織への参加に熱心ではないが、それにかえて通常の友人関係において公共的な意識・態度を身につけている。本報告ではその点に重心をおいて話題提供してみたい。

  • どなたでも参加できます。
お問い合わせ
中井 俊樹
info@cshe.nagoya-u.ac.jp
Tel:052-789-5696
案内用ポスターPDFPDF

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