名古屋大学 高等教育研究センター

第84回招聘セミナー ヨーロッパにおける物理教育改革 吉永 契一郎 氏 東京農工大学 大学教育センター 准教授 2009年11月26日(木) 16:00〜18:00 東山キャンパス 文系総合館 7階 オープンホール

■ 講演要旨

9月にリトアニアに開かれた第11回EUPEN (European Physics Education Network)総会に出席し、 ボローニャ・プロセス以降の大学制度の変化や物理教育における動向をつかむことができた。 ヨーロッパにおける物理学の大きな課題は、日本と同様、学生の物理学離れである。

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ボローニャ・プロセスは、すでに、3年制学士号の導入がこれまでの学士号に必要とされた学習要件を緩和し、 セメスター制の導入が年間のテストの回数や最履修の機会を増やして、退学率や留年率の減少をもたらしている。 これらの教育改善に加えて、イギリスにおいては、物理学が身近な学問となるよう、 中高生・女子学生・中高教員への支援、PBLを用いた教育方法の改善、そして、キャリア教育を推進している。

さらに、近年、学際研究の高まりや古典的な物理学教育の不人気に対応するため、他分野との複数専攻プログラムが増加している。 物理生物は、以前から学生を集めているが、最近では、物理学と経済学や経営学等社会科学との複数専攻が目立っている。 さらに、近年、ボローニャ・プロセスにおける社会人能力や一般能力の設定を反映して、それらの要素が物理学カリキュラムの一部に取り入れられつつある。

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ヨーロッパの大学の事例から分かることは、学部における専門教育という伝統を大切にしながら、 専門分野における水準について妥協することなく、徐々に、専門教育の幅を広げて大衆化や社会的な要請に対応していることである。 戦後、日本の新制大学は、高等教育機会の拡大を目指して、アメリカの高等教育の制度を一気に導入したが、 継続性に配慮を欠いたため、教養教育概念の定着や教員組織、学士力の質の保証に難点を抱えていたことは知られている通りである。 この点において、EUPENは、あくまで物理学という分野に立脚し、国際的な比較データやモデル・カリキュラムの提示はしても、 教育改善については各国の自主性に委ねている。

また、この大会では、EPSI(European Physics Students' Initiative)からも参加者を迎え、 学生からの声を直接聞く機会が設けられていたことも参考になった。 特に、エラスムスによって、異なる国で大学教育を経験した一人の学生は、 「他国の大学においては、自分の理想が実現されていた」とコメントしていたが、教育改善における、比較的手法の意義を感じさせる発言であった。

■ 開催案内

第84回招聘セミナー

講演題目
ヨーロッパにおける物理教育改革
講演者
吉永 契一郎 氏(東京農工大学 大学教育センター 准教授)
日時
2009年11月26日(木) 16:00〜18:00
場所
東山キャンパス 文系総合館 7階 オープンホール

講演概要

ボローニャ・プロセスによって、ヨーロッパは、学士・修士・博士のサイクル・単位制度を共通化した高等教育圏を創出しつつある。 それは、高等教育の「アメリカ化」とも見えるが、ヨーロッパの学部教育は、専門教育のみという伝統がアメリカとは異なる。 物理学離れは日本においても深刻な問題であるが、ヨーロッパ物理教育学会(EUPEN)への参加から、ヨーロッパにおける物理学の人気回復策について論じたい。

お問合せ先
安田淳一郎
info@cshe.nagoya-u.ac.jp
Tel:052-789-5386
ご参加いただける方は、事前に上記メールアドレスまでご一報いただけると助かります。会場準備の都合によるものですので、必須ではありません。
案内用ポスターPDFPDF

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