名古屋大学 高等教育研究センター

第91回招聘セミナー 生涯学習社会における美術教育の意義と課題 藤江 充 氏 愛知教育大学 教育学部教授 2010年10月27日(水)17:00〜19:00 東山キャンパス 名古屋大学大学院文学研究科128講義室

■ 講演要旨

2009年に世界各地の美術館で開かれた特別展の1日当たり来場者数調査で、日本の展示会が1位から4位を独占した。一方で、入館者の絶対数は減っている。このようなねじれが起こるのはなぜだろうか。原因を学校教育や現在の社会状況から探った上で、大学の教養教育で美術を学ぶ意味を考えたい。

学校教育において、子どもの好きな教科調査を見ると、美術は小学校4年から6年までの間2位だが、中学校2、3年の間5位である(国立教育政策研究所2005年調査)。さらに、学年が上がるにつれて教員の期待値と生徒の実感の差が広がっている。図画工作・美術科の時間数が減り続けた結果、特に中学校で時間数が不足している。

そこで、学校外の学習の場と連携することが重要となる。現在、美術館やカルチャーセンター、放送番組、インターネットなど生涯学習のチャンスが広がっているが、これらは本人が主体的に選択して参加するものであり、参加者個人は原則として教育的に「評価」されない。美術概念の広がりとともに、「私事化」も進んでいる。私事化は生活世界へ美術(アート)を持ち込むと同時に細分化・孤立化していく傾向も持つ。個人がばらばらに自分の好きなものだけを楽しむようになるのである。多様なメディアによって、個々のアートからみんなのアートとして共有できるようにすることが重要となる。

高等学校までの学校教育と社会教育とをつなぐ役割が期待されるのが大学の「教養」教育である。「教養」教育とは職業教育ではないものであり、リベラル・アーツである。「教養」教育としての美術の例として、高卒認定に美術をとりいれる(ドイツのアビトゥーア)、リベラル・アーツ・カレッジでの教養科目に美術実技を導入するなどがある。

一方では、美術を学ぶ意味や、長期的に見た成果としての「ユーティリティー」の議論も求められる。ユダヤ人収容所では、夕焼けの美しさに感動するような人が生き残り、子どもたちは、乏しい材料でも絵を描き表現することを求めた。人間にとって、自分にとっての美術(芸術)は、「生きる力」となっていると考えられるのではないか。美術は社会を安定させる保守的な力と同時に、社会を変革していく力にもなる。

■ 開催案内

第91回招聘セミナー

講演題目
生涯学習社会における美術教育の意義と課題
講演者
藤江 充 氏
(愛知教育大学 教育学部教授)
日時
2010年10月27日(水)17:00〜19:00
場所
東山キャンパス 名古屋大学大学院文学研究科128講義室

講演概要

 昨年の東京国立博物館での『阿修羅展』入場者は1日平均15,960人で世界一であった。一方,小学校・中学校での図画工作・美術科そして音楽科の授業時間は減少し続けている。美術愛好者や音楽愛好者は増えながら,学校教育で芸術教科が重視されないのはなぜか。そうしたねじれのなかで大学の教養教育で学生が美術を学ぶことの意味は何か。生涯学習社会において美術を学ぶ意義と美術教育の課題について考えたい。

お問合せ先
西原 志保
info@cshe.nagoya-u.ac.jp
Tel:052-789-5814
ご参加いただける方は、事前に上記メールアドレスまでご一報いただけると助かります。会場準備の都合によるものですので、必須ではありません。
案内用ポスターPDFPDF

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