名古屋大学 高等教育研究センター

第118回招聘セミナー 米国高等教育における学生支援改革とアセスメントの役割 小貫 有紀子 氏 九州大学教育改革企画支援室・助教 2013年10月18日(金)16:00〜18:00 名古屋大学 東山キャンパス 文系総合館7Fオープンホール

■ 講演要旨

本報告では、近年拡大している米国高等教育の学生支援のアセスメントを通じて、学生支援における学習者中心主義への転換の実態とその要因を明らかにした。

1980年代半ば以降の大学教育における学習者中心主義の台頭は、学生支援にも影響を及ぼした。従来、正課教育は学生の知力・認知発達を担い、それを補完する学生支援は学生の人間的成長・心理発達を担うという、大学教育の「分断」された状態は、教室内外の学生の成長や学びを包括的に捉えた正課教育と学生支援の「統合」の概念に置き換えられた。学生担当副学長は、大学の教育目標である「学生の学習促進」を、学生支援のミッション・目標とし、「学寮ベースの学習コミュニティ」のような新たなプログラムの導入とともに、学生の学習成果の向上を意識した学生対応など、既存プログラム・サービスの見直しも図っていった。

一方、この改革の背景には、公的アカウンタビリティの普及や財源縮小という州政府からの強い外圧も存在していた。その対抗手段として、学生の学習に対する貢献を証明するための情報を学生担当副学長に集約せねばならず、その過程でアセスメントに注目が高まっていくこととなった。学生担当職の専門性向上を命題としてきた専門職団体も、アセスメントを推奨し、学生支援の学習成果指標の標準化や、アセスメントサイクルの提唱、学習成果の測定法の普及等を進めている。機関レベルでは、学生担当副学長の強力なリーダーシップにより、評価の専門職の雇用を始め、プログラムごとの学習成果目標の設定や結果の公表等、アセスメントの実践報告が活発になってきている。

以上のように、「分断」時代の学生支援では個別プログラムの自律性が高かったものが、学習者中心主義における正課教育との統合概念が登場したことにより、結果的に個別プログラムの統合や一体化を推進していくこととなった。加えて、アセスメントを通じた専門職団体と学生担当副学長によるトップダウン式の強力なリーダーシップは、大学の教育目標である学生の学習成果の促進を、いかに学生支援において実現するかを模索した結果であり、その背景には財源緊縮という外圧が学生支援の専門性向上という内的動機と絡み合っている。

アセスメント活動の普及は、これまで拡大の一途を辿ってきた学生支援にとって、アセスメントの結果によっては、プログラムや雇用市場が縮小される危険性も孕んでいるものの、それ以上に、学生の学習を促進するという、大学の教育目標に沿った新たな専門性の確立へ向けて、挑戦が始まったといえよう。

■ 開催案内

第118回招聘セミナー

講演題目
米国高等教育における学生支援改革とアセスメントの役割
講演者
小貫 有紀子 氏
(九州大学教育改革企画支援室・助教)
日時
2013年10月18日(金)16:00〜18:00
場所
名古屋大学 東山キャンパス 文系総合館7Fオープンホール

講演概要

アメリカでは1990年以降、学習者中心主義の台頭によって、学生支援のあり方の根本的な見直しが進んでいる。特に2000年以降、学生の学習・生活面についての多面的な観点からプログラムの効果を検証し、改善していくというアセスメントの取組が急速に広がってきている。このような動きの背景にあるエビデンス重視の考え方の特徴に加え、アセスメントを担う専門職の養成や、結果のフィードバック方法等、新たに出現してきた課題についても検討する。

お問合せ先
info@cshe.nagoya-u.ac.jp
Tel:052-789-5696
ご参加いただける方は、事前に上記メールアドレスまでご一報いただけると助かります。会場準備の都合によるものですので、必須ではありません。
案内用ポスターPDFPDF

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