名古屋大学 高等教育研究センター

第73回客員教授セミナー 中国における大学教育の内部質保証
-北京師範大学の学士課程教育を事例に-
高 益民 氏 北京師範大学・教授 2015年2月10日(火)16:00~18:00 名古屋大学 東山キャンパス 文系総合館7F オープンホール

■ 開催案内

第73回客員教授セミナー

講演題目
中国における大学教育の内部質保証
-北京師範大学の学士課程教育を事例に-
講演者
高 益民 氏
(北京師範大学・教授)
日時
2015年2月10日(火)16:00~18:00
場所
名古屋大学 東山キャンパス 文系総合館7F オープンホール

講演概要

教育の内部質保証が世界的に行われている一方で、そのシステムの構築や取り組みは国や機関によって多様化を呈している。中国の大学は、歴史的社会的な要因で独自の体制をもっているため、世界各国のそれとかなり異質的と言ってよい。本研究は北京師範大学における学士課程教育の内部質保証への教授陣や管理部局の関わり方や、教育風土の醸成のための取り組み等を事例に、中国における大学教育の内部質保証を理解するための材料を提供したい。

■ 講演要旨

中国は従来、大学教育の質を重視しているが、改革開放後、特に高等教育のマス化や研究大学の研究偏重化の背景の中で、質保証をより積極的に進めている。世界各国の経験を取り入れようとする中国の大学は、歴史的社会的な要因で独自な体制が形成されているため、大学教育の内部質保証もかなり独自性をもっていると考えられる。内部質保証は各機関によって、それぞれの実情に沿って独自に展開されているため、具体的な機関を事例にしたほうがその実態を説明しやすい。北京師範大学を事例にするのはまず資料入手の便利さという理由がある。また、研究大学の代表例としても妥当だと考えられる。

内部質保証はたいていなんらかの「外圧」が伴っている。中国の場合は、高等教育の質保証と質向上に関わる政策の形成はこうした「外圧」と見られる。1985年、『教育体制改革に関する中国共産党中央委員会の決定』は高等教育評価にはじめて言及し、1990年、『普通高等教育機関教育評価に関する暫定規定』が公布し、『中華人民共和国教育法』(1995年)や『中華人民共和国高等教育法』(1998年)は、高等教育評価をさらに法的に確認している2002年、教育部は学士教育評価を統合し、翌年、独立学院や短期大学にそれぞれ適用する評価案も提出している。2004年、『2003年-2007年教育振興行動計画』は、5年おきに、学士課程教育の評価の実施を宣言したことで、高等教育評価の制度化は基本的に完成し、5年一回の学士課程教育評価は高等教育機関の内部質保証に直接的な促進要因と考えられる。

大学での内部質保証は全学レベルと学部レベルと分けられる。全学レベルにおいて、教務の運営を司る教務処の質保証の機能から、機能独占型、機能分担型、機能移譲方という三つのパタンが分けられる。どの様な類型でも、学生による授業評価、管理者の授業巡視と傍聴、「教学督導団」による監察、学生情報員などの評価手段が利用されている。学部レベルはこうした手段を簡略化した形として利用する以外に、「教学指導委員会」を利用することで、教授陣の役割の発揮に勤めている。

中国においては、質保証に間接的ではあるが、質向上のための組織文化づくりにも努力している。FDセンターのワークショップやランチミーティング、教職員組合が主導する「若手教員授業基本功コンクール」、様々な教育賞(教員、課程、教材など)はそれである。

内部質保証における中国色といえば、大学における行政的権力が強い性格があるため、質保証も行政の力で大いに推進していること、大学教育の独自性より、学校教育の共通性を強調する側面が目立つこと、内部質保証は外部の要因によって促進されるなか、政府(教育部)からの大きな影響を受けていること、質保証の世界的傾向のなか、外国の理論や経験との相乗効果もあり、理論的に裏づける努力も見られること、儒教的な慣習も加え、年長者の役割が活用されたり、聖職的風土で教員の抵抗が軽減されたりしているなどが見られている。

また、課題として、質低下の防止と質向上との関係は曖昧さが残され、形式化や同質化の顕在化や同僚性や自律性の不足が現れている。評価の対象は「学ぶ」より「教える」を偏重していることも改善の必要がある。

お問合せ先
info@cshe.nagoya-u.ac.jp
Tel:052-789-5696
ご参加いただける方は、事前に上記メールアドレスまでご一報いただけると助かります。 会場準備の都合によるものですので、必須ではありません。
案内用ポスターPDFPDF

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