名古屋大学 高等教育研究センター

第20回客員教授セミナー 高等教育ユニバーサル化時代における
初年次教育の課題
濱名 篤 氏 関西国際大学教授/名古屋大学高等教育研究センター客員教授 2003年 8月22日(金) 午後2時 名古屋大学東山キャンパス 文系総合館7階 カンファレンスホール

■ 講演要旨

 大学初年次教育を意味するFirst Year Experience (以下、FYE)という考え方は、従来は全寮制のリベラルアーツカレッジの教育理念に起源を持つが、1970年代末以後のアメリカでは主として retention(学生の残留率)対策として重視されるようになった。上位校においては、学習目標や専門教育への志向性を早期に明確化させることによってトータルの学習効果を高めることがねらいとされ、中下位校では基礎的な学習スキルの定着と学生残留率の向上が主目的となっている。

 サウス・カロライナ大学の全米調査(2000年)によると、FYEのプログラム内容は、(1)アカデミックスキル、(2)生きるためのスキル、(3)自分の大学についての知識・情報の3種類に大別される。細部は各大学のミッションや教育目標・戦略に沿って柔軟にカスタマイズされている。このような大学ごとの特性に加え、国ごとの文化的背景を考慮したカスタマイズも求められる。

 アメリカ型のFYEはどのようにしたら日本の大学に適用されうるのだろうか。第一に、初年次学生の残留率がアメリカよりもはるかに高い日本では、FYE プログラムは大学1年次のみに限らず、学士課程全体にわたって継承されることが重要である。第二に、個人の熱意に依存することなく、大学が組織的にFYE を整備することが必要である。第三に、教員・職員・学生それぞれがFYEに意欲的に取り組むためのインセンティブ(しかけ)が必要である。

 FYEに関する最も重要な課題は、「誰が」「何のために」「何を尺度に」「どのような方法で」FYEを評価するのかという問題である。Retention 率だけでは不十分であり、たとえば学習到達度、満足度、情緒的発達など、さまざまな視点からの評価が必要になるだろう。