名古屋大学 高等教育研究センター

第18回客員教授セミナー 21世紀グローバル化時代の高等教育と大学経営 龍谷大学と大学コンソーシアム京都の試み 河村 能夫 氏 龍谷大学副学長・経営学部教授/名古屋大学高等教育研究センター客員教授 2003年 3月5日(水) 午後3時 名古屋大学東山キャンパス 文系総合館7階 オープンホール

■ 講演要旨

 現在、日本の大学が経験している転換は、個々の大学の主体的な内発的改革を前提としたものである。その意味では、日本の高等教育機関にとって歴史上初めての「自由な競争」原理の下での主体的な自律的改革を経験していると言える。

 個々の大学改革のあり方を考える上でのケース・スタディとして、龍谷大学と京都に存在する50の大学・短期大学によって構成される「大学コンソーシアム京都」を取り上げることにする。これらの個別大学の改革と大学連合体としての大学コンソーシアム京都の運動に共通するキーワードは「地域」である。

 龍谷大学の場合、「大学と地域との連携」を大学の制度として、龍谷エクステンション・センター(REC)を設立した。RECの基本的な目標は、大学の保有する「資源」を地域社会の発展に役立てることにある。その事業は、地域社会のニーズに合う形で教育プログラムを提供するといった、大学の教育機能を重視した普及事業にとどまらず、地域社会のニーズに基づいて研究プログラムを組み、その研究成果を地域社会に還元するという、大学の研究機能を重視した普及事業をも含んでいる。  

 他方、大学コンソーシアム京都は、京都市およびその周辺地域に存在する50の国立・公立・私立の大学・短期大学と京都市、京都4経済団体の計55団体が加盟する大学地域連合である。大学コンソーシアム京都は、地理的に狭い地域に50の大学・短期大学が集積する京都の特性を利点として積極的に生かすことによって、個々の大学の改革と質的向上を促進することを目標として設置された。大学コンソーシアム京都は、地域(住民・自治体・企業・NPO等)との連携を前提として成立している。大学が地域社会のニーズに合った教育プログラムを提供するにとどまらず、地域社会のニーズに基づいて研究プログラムを組み、その研究成果を地域社会に還元するという相互関係を構築することを狙っている。

 このように、地域社会との直接的な連携を大学のシステムの中に取り込むことによって、大学の変革につながることを期待している。科学全体のあり方として重要なことは、学問のバランスである。理工系と人文・社会系との相互関係が強化され、演繹的な研究と帰納的な研究、基礎的な研究と応用的な研究、短期的な研究と長期的な研究、といった相互補完的な緊張関係が学問には不可欠である。よりバランスの取れた学問の発達のためには、日本の場合、積極的に帰納的研究や応用的研究を推し進める必要性がある。このようなバランスある学問の発展を制度的に保証するものとして、大学と地域社会とを直接的に連携させるシステムを構築してきた。ただし、日本ではこれらの実験は全くの未知数である。時間をかけてプロジェクトの一つ一つを実現し、経験を蓄積していくことが要求されている。個々の研究者・教員レベルでは、実際の社会と連携した研究・教育を積み重ねている人々も決して少なくないが、制度として日本の大学には存在しなかった。地域に連携したRECや大学コンソーシアム京都が、そのための制度にならないかと期待している。