名古屋大学 高等教育研究センター

第1回招聘セミナー 「北京大学の教育改革」 Reforms in Education: the Case of Peking University 喩 岳青 氏 北京大学高等教育科学研究所 所長代理 1998年 7月17日(金) 14:45- 名古屋大学高等教育研究センター 会議室


■ 講演要旨


1. 北京大学の歴史的変遷
 北京大学は、1898年に設立された「京師大学堂」を前身とする中国で最初の近代的総合大学(1912年に北京大学と改称)であり、1998年に創立100周年を迎えた。当初は「学の自由」の校風を掲げ、6つの学院、33の系からなる総合大学であったが、1952年に政府の「院系調整」政策で高等教育の専門分化が図られた際に、文理系の総合大学として再編成された。なお、1980年代からは再び総合化が進められている。現在、中国の最高学府として、30の系、52の研究所、63のセンターを擁する。

2. 世紀転換期にあたり、北京大学は何を考えているか
 世界一流の研究大学を目指して、教育目標としては二つの精神(積極的な学習意欲、人間性の豊かさ)、二つの能力(独学する能力、コミュニケーションをとる能力)をスローガンに掲げている。改革の基本的方向は、学問分野の総合化、一般教養と基礎教育の強化、個性の開発である。

3. 80年代以後の諸改革
・従来の文理型大学から、基礎科学と応用科学の有機的連携による総合大学化を目指す。
・専門分化した従来の「系」を、日本の学部に相当する「学院」(School)制に再編したい。
・カリキュラムの構成比において、一般教養科目(15%から25%へ)と基礎科目(35&から40%へ)を増やし、専門科目(50%から35%へ)を減らした。
・カリキュラムの単位制・選択制を導入した。
・社会的ニーズに対応した学生募集と分配制度の改革:現在では、原則として学生は自分で就職先を探し、大学は学生を企業(学生の希望する)に推薦する方式になった。
・大学が企業(コンピュータ・印刷関連)を経営し、基礎研究の成果を商品化することにより、大学財政を補完している。
・現在、約2,000人の外国人留学生を受け入れ、約1,000人の教官・学生を外国の高等教育機関に送り出している。

4. 改革における問題点
・基礎研究と応用研究のバランスを模索している。
・学生募集と分配が市場原理に適合していない。
・人事配置が適正でない。教官や事務官の数が多いために必要以上に学生を募集するので、市場が卒業生を吸収しきれない。就職先を見つけられない学生については、大学が国営企業に分配している。
・教官の給与水準が非常に低いので、生活のためにアルバイトや大学内での企業活動に頼らざるをえず、教育・研究に専念できない。