講演要旨
2002年11月に、大学教育学会のシンポジウムで展開した話を再びさせていただ いた。シンポジウムのテーマは、大学生の自己学習力と彼らへの学習支援を考え
るという内容であったが、そこで私は、学習技術に関する大学生調査のデータを 示しながら、「学習支援」の方法論を誤ると「自己学習力」という言葉が前提に
している学習者の主体性の涵養には逆効果なのではないかと論じた。調査の結果 から、「知的技術の習得」と「学習習慣の形成」という二種類の学習課題を設定
したのであるが、そのどちらがより緊要かつ有効であるかは、大学ごとに、受け 入れている学生層に対応して異なる。そして、とりわけ後者のニーズが意味をも
つケースでは、課題それ自体が学習者の主体性に強く依存する性質のものである から、「支援」という働きかけとは常に矛盾する契機をはらんでいる。言い換え
れば、学生自身に「その気」がなければ先へ進めないような学習経験プロセス に、教える側が「支援」という名目でかかわりをもつことは、そのプロセス自体
を阻害することになるのではないかというのが、私の問題提起であった。セミナ ーでは、先に記した調査のデータを紹介しながら、日々の教育実践に関わる悩み
も打ち明けながら、結果的に我々はどういう学生を社会に送り出すことになるの かを一緒に考えていただいた。