English Pageリンクアクセスセンター概要トップページ



「アメリカ高等教育研究の最新動向 - Strengthening the Bridge between Higher and Secondary Education: Admissions and Placement Policies」

講師:客員助教授 田中 義郎(玉川大学助教授)

日時:1998(平成10)年12月22日(火) 午後2時00分

場所:名古屋大学高等教育研究センター 会議室



講演要旨

1. アメリカにおける高等教育研究者の第一世代とでも呼ぶべき人々は、高等教育研究内部ではなく他分野においてアカデミックなトレーニングを受け、1960年代から70年代にかけてのアメリカ高等教育の転換期に問題意識を覚醒されて高等教育研究を開始した人々である。彼らは主としてグローバルな研究ネットワークを構築することに力を注いだ。これに続く第二世代の関心はより国内的な問題に向けられている。

 1980年代から90年代にアメリカではK(幼稚園年長)から12(高校最上級生)までの初等・中等教育の改革が試みられた。一言でいえばそれはperformance-basedの教育への転換であり、生徒に対する評価もそれにともない、ポートフォリオ・アセスメントへと切り替わっていった。しかしながら、一方でこうした努力は既存の大学が期待する能力、大学入試のあり方と、進学してくる学生のもつ能力、彼らが受けてきた評価のあり方とのギャップを拡大し、中等教育と高等教育の不整合(これはcitizenship educationとacademic educationの不整合と言ってもよい)の原因となっている。これは次の3点に見ることができる。

1)大学教育の準備に関して、生徒のアセスメントのための客観的評価尺度が欠けていること。
2)高校生が行う大学教育の準備と大学入試や入試政策の基準とが不整合であること。
3)高校教育改革の中で、大学教育に向けての準備が重要視されなくなったこと。

こうした不整合はさらに、大学卒業率の低下と大学一年生のremedial率の上昇にあらわれ、特に後者は大学にとっての問題であることはもち
ろん、学生にとっても学位取得にいたるまでの時間と出費の増加を意味するため事態は深刻である。このように、中等教育と高等教育の不整合は、アメリカの数多くの教育改革の最終的効果を疑わせるにいたっている。アメリカ高等研究者第二世代の主要な関心はまさに、この整合性をどのようにつけていくかという点にある。

2. こうした問題解決のため様々な研究プロジェクトが、スタンフォード大学のNational Center for Post-secondary Educationを中心にして進められて
いる。たとえば、

1)大学入試および大学一年生の学力判定における学力水準の設定が、高校と高校生に与える影響の事例研究(カリフォルニア、ジョージア、イリノイ、メリーランド、オレゴン、テキサスの6州)
2)州政府が設定している高校での教育内容、成果、その評価のあり方と大学教育への継続的整合性の研究。(前出の6州についてK−16の観点から学習と成果、評価の継続性がどのように図られているかを研究。)
3)既存の政策の再構築のために、現在大学入試と大学一年生の学力判定で採用されている基本的姿勢と学力基準にその他の選択肢がいかなる影響力を持ちうるかの研究。(これはK−12ではなく、K-16の観点から、大学入試と大学一年生の学力判定を考えていくべきだという問題提起を含んでいる。)

以上のような研究は、高等教育研究者第一世代のように、グローバルな視点を中心に研究を進めているとかえって問題化されにくい研究であると言える。

3. 高校での教育内容、評価のあり方と大学入試基準への継続的整合性を確保しようとする試みのひとつとして、オレゴン州において2001年から導入される計画のPASSシステム(Proficiency-based Admission Standad System)をあげることができる。これは州立大学の入学基準を課題達成能力(Proficiency)の考え方に基づいて定め、これを高校教育の課程に浸透させることによって、高校教育と大学入学基準の整合性を求める注目すべき試みである。