コラム:シラバスどおりの授業

 全国の大学で学生による授業評価アンケートが行なわれている。アンケート項目のひとつに、「この授業はシラバスどおりに進められましたか」という内容が含まれていることが多い。なぜ、この項目が含まれているのだろうか。シラバスには、事務連絡文書、契約書、学術情報ソース、学習手引書の役割があるが、この国でシラバスが導入されて、シラバスは学生と教員の契約書であるということが強調されたため、「この授業はシラバスどおりに進められましたか」という質問が生まれたのではないかと推察される。

 シラバスの本質は、田中浩朗によると、受講生がある授業科目の単位を取得するためになすべき学習(1単位当たり標準45時間に学習)を主体的に進める上で必要な情報をまとめた“学習の手引き”であると捉えられている。この観点こそ、この国の大学関係者のシラバス理解に欠けたものではないだろうか。それは、コラム:SF「電話帳の『謎』」に述べたように、「シラバス」と呼ばれていた、コースの初めに教員が受講者だけに配布する詳細な文書と、「bulletin」とか「course description」と呼ばれる、その年度に大学で開講されるすべての授業の内容を簡潔にまとめた冊子とを取り違えたことに起因している。

 では、どうすればいいのだろうか。今われわれが「シラバス」とよんでいるものを授業要綱と本来のシラバスに分けようではないか。授業要綱は学生、特に新入生の科目選択に必要な情報を与える小冊子にしよう。シラバスにはセンターが開発したウェブ上の「ゴーイングシラバス」を活用しよう。初回の授業では、[授業計画]のプリントアウトを配布して、授業の展開をきちんと説明しよう。授業の進行過程で変更が必要になったら、修正した[授業計画]を再配布すればよい。

 シラバスの本質を理解するならば、「この授業はシラバスどおりに進められましたか」ではなく、「この授業の学習にシラバスは役立ちましたか」と聞くべきではないだろうか。