1:コースをデザインする

2:授業が始まるまでに

本当のシラバスを作ろう
教科書を選ぶ
講義ノートは改訂を忘れずに
コースパケットをつくる
開講直前のチェックを忘れずに
3:第一回目の授業
4:日々の授業を組み立てる
5:魅力ある授業を演出する
6:学生を授業に巻き込む
7:授業時間外の学習を促す
8:成績を評価する
9:自己診断から授業改善へ
10:学生の多様性に配慮する

 

2章 授業が始まるまでに

 

2.1 本当のシラバスを作ろう

2.1.1 そもそもシラバスとは何ぞや

 シラバスは、教師がコースの初めに学生に配布する授業計画のことです。そこには、各回の授業のテーマや、そのために予習しておくべきことがら、課題、評価の方法と基準などを盛り込みます。

  シラバスは教師と学生の一種の契約でもあります。授業もだいぶ進んだころになってから、のこのこ学生がやってきて「今日提出のレポートがあるなんて知りませんでした」と言ったとしても、「授業の初めにシラバスを配布して説明したでしょう。ぼくの授業を受講している人は、それに同意の上で参加しているんですよ」と言うことができます。もちろん逆に、シラバスは契約なのですから、教師もそれに沿った仕方で授業を進める義務を負います。学生に「先生が今日はバブル経済の崩壊の原因について授業するとシラバスに書いていたから、わざわざ参考図書を買って読んできたのに、どうしてその話をしなかったんですか?」と責められることにもなります。このようにシラバスは、学生、教師双方が授業の成立に責任をもつことを促します。

  きちんと考えてシラバスを作っておけば、毎回の授業で課題を説明したり、説明するのを忘れて授業計画が狂ったりせずにすみます。教師にとってもシラバスはたいへん便利なものでもあるのです。

 

2.1.2 シラバスを作る意義

 シラバスを作る意義には、以下のようなものがあります。

  1. 学生との契約であるから、双方がコースの展開に責任をもつ意識を高める。シラバスがない、「学生さん、自由にやってちょうだい」型の授業は、学生の目には教師の無関心と無責任の証拠と映る、という研究がある。
  2. 学生が、現在自分たちはコースのどこにいて、どこに向かっているのかを知ることができ、基本的に安心感をもつことができる。
  3. 学生の教室外での学習活動のガイドになり、それを促す。
  4. 課題やその提出締め切りなどを、そのつど周知する手間を省く。
  5. シラバスを書く作業を通じて、教師はコースのプランをより具体的なものにすることができる。つまり、学生と自分の時間的制約、教材の制約などの観点から、コースにおいてなにを捨て、なにを残すか、コースにおいて本質的なものはなにかを考えることを教師に促す。
コラム:SF「電話帳の謎」

 

2.1.3 シラバス作りのコツ

  シラバスにはどのような情報を記載すべきかは、次のチェックリストをごらんください。

チェックリスト:学生用シラバスに盛り込むべき情報

 よいシラバスを書くための最も効率的な方法は、よくできているシラバスを真似する、というものです。インターネットはよいシラバスの見本の宝庫です。現在ではアメリカを中心として多くの大学教員が自分のホームページをもち、そこに担当コースのシラバスを掲載しています。自分と専門分野が近い研究者のホームページを訪れてみて、そこのシラバスを見てみましょう。いろいろな発見があるでしょう。また、分野ごとにシラバスの案を提示した書物もたくさん出版されています。

コラム:はじめてのシラバス作成

シラバスの一例

 

2.2 教科書を選ぶ

2.2.1 教科書を使うべきか

 教科書選びは頭痛の種です。教科書は適切に用いるならばコースの大きな助けになりますが、コースの制約条件のひとつにもなります。たとえば、ある教科書を選べば、用語の定義や表記法・記号法はその本に従わざるをえなくなります。教科書の記号法と教室で教師が用いる記号法が異なっていると、学生は混乱してしまいます。

  また、そうかといって、教科書を学生に買わせておきながらほとんど使わないというのも、学生と教師の信頼関係を大きく損ないます。学生が教科書に関してもつ不満の多くが、この「買わされたけれどあまり使ってくれなかった」という点なのです。学生は週にいくつもの授業を受講しますから、教科書代の負担はばかになりません。どこかで使うかもしれないから、という安易な理由で、明確なプランもなしに教科書を購入させるのは慎むべきでしょう。

  教科書を導入することには、次のような利点があります。

  • 主題全体の構造とその中での現在の位置を確認することによって、学生にコースに統合性と見通しをもたらすことができる。
  • 重要な概念の定義、重要な定理・事実を常に参照するための用語集として役立つ。

したがって、教科書を採用する場合にまず教師がすべきは、授業における教科書の位置づけを明確にすることです。

  • 授業を教科書中心に進め、教科書を補足する形で授業を行う。
  • 教科書は授業で扱えないが、しかし重要な話題を自習するために用いる。

この場合、課題を課すなど、なんらかの方法で教科書を本当に読ませ、理解したかどうかのチェックを行う必要があるでしょう。

  • 教科書は演習問題のみを利用する。

これらのうちどの位置づけを教科書に与えるかによって、それに適した教科書の選択基準も変わってきます。

次のチェックリストを参考にしてください。

チェックリスト:教科書を選ぶ前に

 

2.2.2 教科書は通読しよう

 しかし、なによりも重要なのは、指定した教科書を通読することです。是非はどうあれ、学生は教科書を非常に信頼しています。ですから、教師が教科書と矛盾したことを授業で述べると混乱します。教師は教科書に指定した本の、どこになにが書いてあるかを把握し、もし教科書の著者と見解を異にするところがあれば、それを授業において明確に述べておく必要があるでしょう。

コラム:いい教科書とは?

 

2.3 講義ノートは改訂を忘れずに

 コースの内容を大きく変えたときはもちろんですが、例年どおりの内容の授業をする場合でも、講義ノートの改訂は不可欠です。以下の項目を検討しましょう。

  • 統計資料などをアップデートする
  • 最新の研究成果を盛り込む
  • 実例や比喩などが古びたものにならないようにアップデートする
  • 授業記録と照らし合わせて、より効果的な事例、比喩などに差し替える
  • 練習問題を前年度と異なるものに差し替える

  講義ノートを改訂する作業を通じて教員自身もリフレッシュし、新たな気持ちでコースに取り組むことができるようになります。

 

2.4 コースパケットを作る

2.4.1 コースパケットとは

 コースパケットとは、学生が随時必要とするさまざまな教材をひとまとめにしたものです。コースパケットには、次のようなものが含まれます。

  • 学生が予習したり授業中に使用するための教材(論文のコピー、その他の資料など)
  • 課題(練習問題、レポートの指示と執筆のための参考資料)
  • 必要なときは練習問題のヒントや解答
  • 参考文献ガイド

  これらを学期が始まる前に選定し、作成したシラバスと連繋させてひとまとめにしたものを開講時に配付します。こうすると、いざ開講してから毎日のように教材作成に追われたり、「先週のプリントをください」と要求する学生への対応に追われることがなくなり、かえって効率的に時間を使うことができます。学生にとっても、自分がそのコース全体を通じてどれだけの課題を果たさなければならないかを常に把握することができます。

 

2.4.2 パケットづくりのコツ

  パケットは小冊子の形にする、袋詰めにするなど、さまざまな形態が考えられます。多人数の学生を相手にする場合やパケットの量が多くなる場合などは、次のような工夫も可能です。

  • 生協の印刷部や書籍部を利用する
  • 原稿を作っておき、各自に自分の分をコピーさせる
  • ホームページを利用する。ダウンロード可能なファイルの形でパケットを置いておき、各自にダウンロードさせる

 

2.5 開講直前のチェックを忘れずに

 さて、ここまでであなたのコースの準備は整いました。開講直前に、もういちどコースのデザインと準備が完全かどうかチェックをしましょう。

チェックリスト:コースが始まる前に