クリティカル・リーディングの準備

  • 資料を調べ、基礎情報を確認する:インターネットや書店、公立図書館を通じて資料を収集することもできますが、学術的な資料を集めるのに最も適しているのは大学図書館です。名古屋大学附属図書館は、たくさんの新聞、学術雑誌、図書を所蔵していますし、図書館のウェブサイトを通じて利用できる電子ジャーナル、辞典も多くあります(他大学の図書館の資料も取り寄せ可能です)。これらの資料を効率よく探すことができるOPAC(蔵書目録)や各種データベースも図書館のウェブサイトから利用可能です。図書館の「調べ方サポート」のページ(http://www.nul.nagoya-u.ac.jp/support/)では各種ガイドが利用でき、eラーニングで調べ方を学習することができます。また、中央図書館2Fの参考調査カウンターでは、資料の調べ方の相談もでき、図書館主催の資料の調べ方の講習会も開催されています。
    資料を収集する際には、その資料が自分の調べたい内容を扱っているのか、どのような著者によって、どのような時代に書かれたのかを確認しましょう。論文の場合は、冒頭にその要旨と作者、年代が通常書かれています。本の場合は、OPACやデータベースを使えば確認できます。一般に、より新しい研究に基づいて専門家が作成した資料やデータの方が、古いものよりも信頼できます。データの信頼性については、《参照⇒データを参照する》
  • 知らない言葉や専門用語を確認する:クリティカル・リーディングを行う前に、分からない用語があるならば、辞書や辞典を使って調べてみてください(図書館のウェブサイトを通じてオンラインで利用可能な辞書、辞典もあります)。日常的な言葉に見えても、学術的な意味が異なる言葉もあります。分野や時代ごとに同じ言葉でも意味が変わっている場合もありますので、その点にも注意してください。

資料の歴史的、社会的背景を調べる

資料は、特定の歴史的、社会的背景を持っています。例えば、現在の日本の賃金格差を主題とする資料は、現代日本という特定の時代、特定の社会で生じてきた問題を扱うために書かれているはずです。資料の歴史的、社会的背景を調べ、同時に著者がどのような意図でその資料を作成したのかをできるだけ正確に知ることが重要です。

資料の目的と議論の進め方を分析する

  • 資料の目的を把握する:学術的な資料の目的には、ある資料に対する解釈を提示する、調査結果を報告する、ある仮説、立場、見解を立証・批判するなど様々なものがあります。資料の序論や結論には、その資料が何を目的として作成されたのかが書かれていることが多いですので、確認しましょう。1つの資料が複数の目的をもって書かれていることもあります。
  • 目的を達成するためにどのように議論が進められているのかを分析する:学術的な資料の多くは、目的を達成するために議論を進めていくという構造を持っています。最も多い目的は、特定の仮説、見解、立場を合理的に立証するというものです。合理的に立証するためには、その見解を裏付けたり、他の見解を批判するための理由や証拠を提出したりする必要があります。①どのような見解を立証しようと試みているのか、②どのような見解をそれに対立するものとみなしているのか、③前者を立証し、後者に反論するために、どのような理由や証拠を提出しているのか、④立証した見解の問題点や欠点をどのようなものと考え、どのようにそれを克服できると考えているのか、といった点に着目して読解を進めましょう。議論の流れを把握するために、重要な箇所は繰り返し読み、議論全体でその箇所がどのような役割を持っているのかを考える必要があります。

自分のバイアスを意識しつつ、資料の合理性を検討する

  • 自分のバイアスを意識する:短時間で処理することが難しい多くの情報を処理するため、情報の一部だけに着目し、即座に判断を下すための仕組みが人間の心には備わっています。しかし、この仕組みは、情報の正確な評価を妨げるバイアスとして機能することがあります。特に、確証バイアス(自分がもともともっている見解や価値観に合う見解を簡単に正しいとか、合理的だと考えてしまい、それに反する見解や理由を十分に検討しない)、利用可能性バイアス(印象深く、心に思い浮かびやすいことが、頻繁に起こると考えたり、同じようなものすべてにあてはまると考えたりしてしまう)を意識してみましょう。
  • バイアスを回避する:バイアスを避ける一つの方法は、自分の見解、価値観、経験と一致しなくとも、資料の著者はその見解に適切な理由や証拠があるとみなしていると、とりあえず考えてみることです。この読み方のルールは「寛容の原理」と言われます。こう考えることで、著者の見解を頭ごなしに否定せず、著者がどのような議論を行っているのかを冷静に考えやすくなります。また、反対に、自分の見解、価値観、経験を資料に読み込んで、著者が言っていないことを言っていると考えるのもバイアスの現れです。過度に自分を投影せず、著者の述べていることだけを考えるという読み方のルールは、「公平の原理」と呼ばれます。
  • 資料の合理性や価値を検討する:学術的な資料の価値を評価する基準は、その議論が合理的なものかどうかになります。議論の合理性を評価するためには、ある立場とそれへの反論のどちらがより良い理由や証拠によって裏付けられているのかということを検討する必要があります。レポートを書く際にも、資料や自分の見解についての合理的な評価を行なうことが重要です《参照⇒レポートを書く》
推薦文献
福澤一吉(2012)『論理的に読む技術 文章の中身を理解する“読解力”強化の必須スキル!』、SBクリエイティブ.
T.W.クルーシアス・C.E.チャンネル著、杉野俊子ほか訳(2004)『大学で学ぶ議論の技法』慶應義塾出版会.
発行|
名古屋大学教養教育院 & 高等教育研究センター
初版|
2018.3.20
作成|
笠木 雅史