2. 留学生の受け入れに関するQ&A

[ Q ]は2010年8月に実施した教員アンケート結果から要約・抜粋したものです。[ A ]はこのアンケート結果をもとに、留学生相談室や留学生担当教員の経験を活かして作成しました。

※[ Q ]のテキストをクリックすることで、[ A ]が下に表示されます。開かれたテキストは、もう1度[ Q ]のテキストをクリックすることで閉じられます。また、複数の項目を同時に開くことも出来ます。

2-1. 受け入れ手続きを行う

[Q1] 留学志望者の日本語能力をどうチェックすればよいか。

履歴書や研究計画書などを提出させた上で、この内容に基づいて直接インタビューを行うことをお勧めします。電話だけでは本人確認をできない場合もありますので、国際電話やSkypeを使うなど工夫をしてください。本人がすでに日本の他大学や日本語学校に滞在している場合は、大学に直接来てもらい、日本語能力、基礎学力などをチェックすることもできるでしょう。

[Q2] 記載された学歴が正確なものかどうか、申請段階でどうチェックすればよいか。

志願者の出身国の教育事情に詳しい教員に書類を見せて確かめてみてください。中国の場合は「中国学位・学歴認証システム」があり、中国で取得した学位を中国政府の機関が認証してくれます。名古屋大学ではすでにいくつかの部局がこのシステムを導入しています。詳しくは、所属部局の留学生担当教員にお尋ねください。

[Q3] 志望学生の出身大学のレベルを確認するのが困難だが、どうしたらよいか。

志願者の出身国の教育事情に詳しい教員に確かめてみてください。国によっては、重点大学などの区分があるところもあります。その他、世界大学ランキングを発表している機関もいろいろありますので、ある程度参考になるかもしれません。ただし、こうしたランキングは独自の指標に基づいて作成されていますので、大学の順位は指標によって大きく異なることがあります。学生の出身大学のレベルを確認する参考情報にはなりますが、必ずしも絶対的な判断基準とはいえません。できるだけ、一つの情報だけで判断せず、信頼できる複数の情報を総合して判断するようにしてください

[Q4] 研究計画書を自分で書いていないと思われるものがある。どうやって見わければよいか。

そのように感じられる箇所があれば、Google Scholarなどで検索にかけてみると、オリジナルの論文や報告書が出てくることがあります。また、市販ソフトウェアを利用するという方法もあります。その他、本人に研究計画書について、口頭で説明させたり、質問をしてみるとよいでしょう。自分で作成していない場合は、明確な回答ができないことがあります。

[Q5] 留学生の身元引受人や出身大学の推薦書等の信頼性が疑われるときは、どうやって確認すればよいのか。

身元引受人や推薦書を作成した教員の連絡先に直接問い合わせ、留学生本人について尋ねるとよいでしょう。推薦書を書いた先方の大学教授がその学生のことをよくわかっているとは限りません。推薦書や身元引受人が形式的になっている国もありますので、十分に注意することが必要です。

[Q6] 授業料や生活費の支払い能力があるかどうか、どうやって確認すればよいか。

留学生としての在留資格認定を受ける際に、どの留学生も留学経費の支弁能力に関する証明書を提出していますので、入学後授業料の支払いができない、ということは本来ありえません。ただし、入学後、学費免除や奨学金をあてにしている学生がいるかもしれません。留学生には、これらを入学前にあてにしないこと、万が一支払いができない場合には、最悪の場合は帰国しなければならないということを伝えることが必要です。

[Q7] メールでやりとりしても、研究生を受け入れるべきかどうか判断がつかない。たくさんの希望者から依頼が来て、誰を受け入れるかで悩んでいる。

できるだけ一人で判断せず、これまでその国・地域の留学生を受け入れたことのある同僚教員、留学生担当教員に相談してみてください。部局によっては、研究生希望者の情報を留学生担当教員のところに一元化しているところがあります。最近は、仲介者が本人になりすましてメールをしたり、書類の偽造なども散見されますので、まず本人確認をすることが重要です。すでに日本国内にいる場合は、大学に来てもらい、直接話をするのがよいでしょう。海外にいる場合は、Skypeや電話などの手段で直接話をするという方法もあります。その際は質問を工夫し、これまでどのような学習をしてきたか、どんな先生から指導を受けてきたか、なぜあなたの研究室を希望するのかなど、履歴書に基づいて具体的な質問をするとよいでしょう。相手にはできるだけ書類を読まずに口頭で答えるようにさせるとよいでしょう。日本人学生も含めて、受け入れ教員として責任をもって研究指導できるキャパシティをあらかじめ考えておいてください。

[Q8] 入学検定料の送金方法をどうしたらいいのか? 留学生にとって為替の作成は容易でないと思うが。

入学検定料の送金方法については全学的な課題となっており、現在様々な方法を検討中です。詳しくは所属部局の留学生担当教職員にご相談下さい。平成23年度から始まるグローバル30プログラムでは、クレジットカード決済ができるようになりました。近い将来、グローバル30プログラム以外の学生にもクレジットカード決済をできるように検討中です。

[Q9] 留学生にチューターをつけられると聞いたが、どのような学生をチューターに任用すればよいか。

その留学生がどのようなサポートを必要とするのかを把握し、それに適したチューターを探すことが必要です。専門分野の基礎知識の習得が必要なら、同じ研究室の先輩学生が望ましいでしょう。短期留学生のチューターなら、日本の文化施設などに一緒に出かけたり、必要な時に通訳ができる学生が好ましいでしょう。その他、責任感があり、留学生支援に真面目に取り組むことのできる学生、コミュニケーション能力をもった学生であることが期待されています。

本学では『名古屋大学チューター・マニュアル』や『名古屋大学チューターハンドブック』を制作しています。下記のURLからPDF形式で全文ご覧いただけます。
http://www.ecis.nagoya-u.ac.jp/exchange/tutor.html

[Q10] 留学生のチューターに適任の日本人学生が見つからなくて困る場合が多い。

日本に一年以上滞在しており、チューター業務に問題のない留学生ならば、チューターを依頼することができます。むしろ留学生の方が、日本社会での適応方法などについて、より適切なアドバイスをすることができるかもしれません。また他研究室、他研究科の学生でもチューターになることができます(ただし研究生はチューターになれません)。

[Q11] 研究生として入学したら、自動的に大学院の試験に合格できると考えている留学生がいる。どのように対応するのが適切か。

研究生を受け入れる際には、もし大学院入試に不合格になった場合どうするかを本人に事前に十分に検討させてください。研究生になったからといって大学院の入試に合格することが保証されているわけではないこと、不合格になった場合は、他研究科や他大学への入学も視野に入れておくことを理解させる必要があります。あなたの研究室では、最大どのくらいの期間まで研究生を受け入れることができるか、彼らに大学院受験のチャンスを何回まで認めるのかも併せて伝えてください。

また日本の入管法では、在留資格の期間が残っていても所属先がなくなってしまうと、日本に滞在できなくなります。このことも本人によく伝えることが大切です。
参考リンク:名古屋大学の大学院入試について知りたい

[Q12] 他大学の大学院受験を勧めたが、転学を受け入れがたいようである。

希望する教員に研究生として受け入れられると、自動的に大学院に入学できると考える留学生がたまにいます。あるいは、他の研究科や大学を受験したり、指導教員を変更することは、一度受け入れてもらった教員に対して裏切ることになると考えている人もいます。そのため、所属する大学院しか受験しない人もいます。運悪く合格できなかった場合、研究生の継続ができず、行き先が決まらずに途方に暮れてしまうことも少なからずあります。このような最悪の結果を避けるためには、ふだんから大学院入学試験の難しさを説明し、万が一に備えて他の研究科や大学も受験しておくように伝えておきましょう。
参考リンク:名古屋大学の大学院入試について知りたい

[Q13] 大学院入試に不合格であった留学生を、次年度の研究生として受け入れ延長すべきか。

その学生は、もう一年研究生を延長すれば大学院入試に合格できる可能性がありそうでしょうか。研究生の期間中に、どの程度努力して学習、研究をしたか、研究能力、基礎学力、語学能力はどの程度向上したか、大学院に入学しても留学生活が継続できるかなどを総合的に判断し、研究生の受け入れ継続の可否を考えてください。
参考リンク:名古屋大学の大学院入試について知りたい

[Q14] 留学生を(4月、10月以外の時期に)3ヶ月受け入れるが、宿舎をどうしたらよいか。

まず、所属部局の留学生担当教職員を通して、国際学生交流課の宿舎担当者に空室があるかどうかを問い合わせるのがいいでしょう。空室がない場合、学外のアパートを探すことになります。基本的には、名大生協や大学付近の不動産会社で探す必要があります。

[Q15] 留学生を受け入れたいが、入学前に申し込める奨学金はあるか。

残念ながら、留学生用の奨学金はほとんどが入学してからの申し込みになっています。国費留学生奨学金には3つの申し込み方法があり、大使館推薦、大学推薦と国内採用です。大使館推薦と大学推薦は、入学前に決まります。これらを含め、留学生の奨学金については独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)のホームページに詳しく掲載されています。

2-2. 日本の生活への適応を促す

[Q16] 奨学金を受給できると期待して入学したために、不採択になって困窮している私費留学生がいる。どのように対応すればよいか。

私費留学生の場合は、少なくとも1年間は日本で暮らせる費用(入学金、授業料、生活費など)を準備するように、受け入れる前に本人に伝えてください。少なく見積もっても年間150~200万円は必要です。独立行政法人日本学生支援機構では私費留学生のための学習奨励費を提供しています(大学生:月48,000円、大学院生:月65,000円)。ただし、採択数には限りがあります。大学から推薦されるためには、全学の採択計算ルールに加えて、各部局における推薦基準をパスしなければなりません。部局によっては研究生も申請できる場合がありますが、正規学生が優先される可能性が高いです。このほか、民間財団などの奨学金もありますが、研究生を対象とする奨学金はほとんどありません。

もし学習奨励費や奨学金の申請が不採択になった場合は、アルバイトをして生活費と学費を賄う準備をさせてください。研究室内や学内でのアルバイト情報をご存じであれば、ぜひ留学生に紹介してください。
参考リンク:私費留学生のための奨学金情報について知りたい

[Q17] 留学生がアルバイトを優先して、研究活動が停滞している。

留学生がアルバイトをするには、入国管理局から「資格外活動許可」を受ける必要があります(TAやRA、チューターを除く)。外国人留学生は日本でアルバイトをすることが条件つきで認められています。一般的には、1週間28時間以内の就労が認められています。留学生は自分で最寄りの入国管理局に出向いて「資格外活動許可申請」を行う必要があります。許可されるとパスポートにシールが貼られ、留学生はそのコピーを学部・研究科の留学生担当事務窓口に提出しなくてはなりません。夏期休暇などの長期休業期間は一日8時間以内のアルバイトをすることができます。ただし、名古屋大学では留学生の休学中のアルバイトを原則として禁止しています。

留学生がアルバイトを希望する場合は、上記の許可を得ているかどうかを確認してください。その上で、どのようにアルバイトの時間を捻出するのか、希望するアルバイトが学習・研究活動に支障をきたさないかどうかを指導教員から確認してください。そして、雇用主に労働条件や賃金の支払いについて明記した文書をできるだけ作成してもらうように学生に伝えてください。

もしアルバイトによって学業や研究活動に支障をきたすならば本末転倒です。その場合は、留学生とよく相談した上で、アルバイトの時間を減らす、中止する、あるいは別のアルバイトに変えるなどのアドバイスをしてください。また、学生の服装や外見がきわだって変化したと感じることがあれば、プライバシーに支障ない範囲で、何か生活上の変化があったかどうか聞き、研究活動の進展を促してください。
参考リンク:留学生のためのアルバイト情報について知りたい

[Q18] 留学前には経済的な問題はないと主張するが、留学後に経済的な困難さを強く訴える留学生がいる。

本来的には日本に留学する時点で経済的な問題は存在しない、もしくは解決していることが前提になっています。留学生は在留資格認定証明書の交付申請時に、日本留学中の経費を支弁する能力があることを証明しなければなりません(研究生も含めて)。それでも諸般の事情で経済的に困窮しているようなら、日本学生支援機構の学習奨励費やその他の各種奨学金を申請する、あるいは適切なアルバイトを探すなどの対応をとるように留学生に指導してください。ただし、アルバイトが生活の中心となってしまい、学習・研究活動に支障をきたすようではいけません。また、休学中に日本でアルバイトをさせないでください。次回の在留期間更新が不許可になる可能性があります。どうしても経済的な問題を解決できない場合は、休学して自国へ戻り、資金の準備ができたら再来日することも選択肢の一つです。

[Q19] 病気や事故などの突発的な事由により、経済的に困っている留学生がいる。

名古屋大学留学生後援会が5万円の貸付金を行っています。この貸付金は3ヶ月以内に返済する場合に限られ、無利子です。ただし、授業料などをカバーするには不十分ですので、あくまで想定外の一時的な支出を賄う目的に限られます。
参考リンク:留学生のために貸付金を申請したい

[Q20] 日本人学生との日常的な交流ができるように研究室でさまざまな行事を行っているが、経済的理由からコンパやゼミ旅行などに留学生の参加が難しい場合がある。

一般的に留学生はまとまったお金を出すことが難しいため、少しずつ積み立てる方法を考えたり、ゼミ旅行のための研究室内でのアルバイトを考えたり、彼らの経済的負担を軽減できるように配慮してください。できるだけお金をかけずに楽しめるように工夫できるとよいでしょう。留学生が行事への参加を希望しないときは、何か理由があるかもしれませんので、無理強いはしないでください。

[Q21] 留学生からアパートの保証人になるのを頼まれた。

原則として、指導教員が保証人になる必要はありません。名古屋大学留学生後援会が連帯保証事業(機関保証)を行っていますので、ほとんどの場合、指導教員個人が保証人になる必要はありません。留学生には国際学生交流課で機関保証の手続きするよう話してください。ただし、機関保証は留学生のみが対象であり、外国人研究員には適用されませんのでご注意下さい。

まれに、留学生が機関保証を認めないアパートを探してくる場合がありますが、その場合はできるだけ別のアパートを探すように伝えてください。学生が機関保証を認めないアパートを強く希望する場合は、留学生担当教職員にご相談ください。
コラム1:名古屋大学留学生後援会について
参考リンク:アパートの保証人を頼まれた

[Q22] 私費留学生用に、家賃が安く日本語の得意でない学生を受け入れてくれる住居を研究室で探さなければならない。

新規の留学生は、4月、10月の渡日であれば名古屋大学の宿舎に原則として6ヶ月~1年間入居することができます。入居する宿舎・部屋は大学によって割り当てられます(家賃は宿舎や部屋によって多少異なります)。その後の住居について困っているようであれば、留学生全員に配布されている『名古屋大学留学生ハンドブック』に詳細な情報が記載されていますので、これを読むように伝えてください。また、大学近辺の各種不動産会社は留学生の宿舎探しに慣れていますから、気軽に相談するように伝えてください。

一方で、日本の民間アパートの家賃相場について、留学生に実態を理解させることも大切です。ちなみに、名古屋大学の留学生の平均家賃は月37,000円程度となっています。

[Q23] アパートでの苦情を大学に持ち込まれたことがある。

名古屋大学留学生後援会が連帯保証事業を行っているため、宿舎やアパートで起きたトラブルは、連帯保証人である大学に持ち込まれることが多くあります。たいていのケースは国際学生交流課と各部局の担当者が協力して対応しています。指導教員は留学生に対しても、家主に対しても、最後の切り札のような存在です。事務局からご協力をお願いすることがあるかもしれませんが、その際はどうかご協力願います。

[Q24] 留学生がアパートを退去するときに後始末をきちんとしないケースがある。また、帰国後に廃車手続きが完了していなかったケースがあった。

このような緊急の場合は、所属部局の留学生担当教職員にご相談ください。基本的に、指導教員が経済的な負担をする必要はありません。留学生がすでに帰国してしまった場合は、実情を伝えて、必ず留学生本人に費用の請求をしてください。

アパートの入退去は居住者の自己責任です。家主とトラブルが起きないように十分な配慮が必要だということを、指導教員からも受け入れ時に留学生に念を押してください。

[Q25] 留学生が交通違反をして、警察から出頭命令が届いた。その際に、通訳として指導教員にも出頭依頼があった。

すぐに留学生担当教職員にご連絡ください。状況に応じて、指導教員のご協力が必要になる場合があります。

[Q26] 留学生が精神的な問題を抱えているようで、指導教員にあまり話したがらない。

留学生が精神的に不安定な状態になっている場合は、すぐに留学生相談室にご連絡ください。留学生相談室にはメンタルヘルス(精神医学)を専門とするカウンセラーがいます。よく眠れない、気分的に落ち込んでいる、摂食障害がみられるなどの初期症状は、チューターや周りの学生が気づくことが多いです。
参考リンク:留学生がメンタル面の問題を抱えている

[Q27] 留学生が研究指導の内容をなかなか理解しないのでおかしいと思っていたら、中等度の難聴だったことが判明した。どのように対応すればよいか。

所属部局の留学生担当教職員および学生相談総合センター内の障害学生支援室に連絡するとよいでしょう。区役所で手続きをすれば、障害者手帳をもらうことができます。また、補聴器の購入が無料になるなど、さまざまな補助を受けることができます。これらは学生が自分で手続きすることができます。ふだんから学生と話をするときには、大きめの声で、はっきりと話をするように心がけてください。 留学生が到着したら、何らかの障害をもっているかどうかを確認するのがよいでしょう。
参考リンク:障害をもった留学生のためのサポートを必要としている

[Q28] イスラム圏からの学生が複数いるので、研究室内での祈りの場所を用意してほしいと言われた。

イスラム教徒(ムスリム)の金曜礼拝については、名古屋大学ではインターナショナルレジデンス東山の会議室を使用できるよう配慮しています。ただし、毎日の祈りの場所は大学内に確保されていません。空いている教室や階段の踊り場を使っているという報告もあります。イスラム教徒にとって祈りは生活の一部ですし、その姿を日本人学生が目にすることは異文化理解につながります。できれば研究室の周囲で場所を確保してくださるとありがたいです。

[Q29] 留学生によっては宗教的理由により食べられない食物がある。

留学生にどのような飲食上の制約があるかを、受け入れ時に確認しておいてください。制限のある飲食物を強引に勧めることは避けてください。宗教上の理由でなくても、ベジタリアンの人もいます。ブフェスタイルのパーティーでは、食べ物の名前と食材を記載したカードを添えておくとわかりやすいです。生協食堂の中にはハラールフードなどの表示がなされているところもあります。
コラム7:ベジタリアンにもいろいろある

[Q30] 私が受け入れた留学生は、困っていることやわからないことを、なかなか話してくれなかった。

留学生を受け入れるときに、困ったことがあったら、遠慮せずに相談するように最初に伝えてください。ふだんから、「困っていることはないですか?」と留学生に声をかけて、彼らに何らかの注意を促すときは根拠や理由を明確に示すことが大切です。

学生と教員の関係には文化的な差異も大きく影響します。個人的な悩みを指導教員に相談するのを遠慮する学生は少なくありません。その反対に、学位が取れないのは教員の指導が悪いからだと誤解する学生もたまに見受けられます。

[Q31] 奨学金申請のための推薦書を書くのにかなりの時間を取られる。

推薦書作成を依頼された時は、まず留学生本人に自分のアピールポイントを書かせてみてはいかがでしょうか。自分のことは本人が一番わかっているはずです。それを参考にして、奨学金団体等の趣旨に合わせて指導教員が書き直せば、比較的容易に書くことができるでしょう。

[Q32] 友人関係について悩んでいる留学生は多い。日本人学生は冷たいと考える留学生もおり、友人関係、学術コミュニティを形成しづらい。

各部局の学生用掲示板や留学生センターの掲示板では、学生用にさまざまな行事を案内しています。ぜひ積極的に行事に参加するように伝えてください。また、できるだけ研究室全体で留学生をバックアップするように工夫してください。

友人のつくり方や友人関係は文化によっても違いがあります。日本社会では友人をつくるのに比較的時間がかかるようですが、知り合うことと友人になることがほぼ同義の文化もあります。特にスキンシップの多い国から来た学生は、日本人の人間関係を淡泊だと感じるかもしれません。また、母国で学生寮での生活が長かった留学生にとっては、アパートで単身生活を送ることは心細く感じられるかもしれません。この問題について留学生が指導教員に相談しづらいようであれば、チューターに相談役を依頼するという方法もあります。いきなり日本人の友人をつくるのはハードルが高いようであれば、相談相手になれそうな同国人や他の留学生を紹介するという方法もあるでしょう。
コラム9:留学生の人間関係

[Q33] 一時帰国から戻った留学生がお土産を持ってきてくれた。受け取ってよいのだろうか。

留学生がプレゼントに類するものを持ってきてくれる場合、高価なものでなければ、感謝の気持ちを伝えつつ受け取って差し支えないでしょう。その際に、「あなたの気持ちは十分に伝わったので、次からはこのような気遣いをしなくてもいいよ」と一言添えてはいかがでしょうか。贈答の文化が深く根付いている国もありますので、むげに断る必要はないでしょう。ただし、お中元やお歳暮に類するような贈答品や、明らかに高価なものだと思われる場合は、相手の気分を害さないように「気持ちだけで十分うれしいです」と感謝しつつ、遠慮するのが妥当だと思われます。
コラム8:留学生と「おみやげ」

[Q34] 書類提出の期限などを守れない留学生がいる。

その留学生が提出期限を理解しているかどうか確認してください。理解しているとすれば提出期限を守らなくて困るのは本人です。たしかに、時間の感覚は国や地域によって大きく異なるようです。来日当初は文化の違いに戸惑うかもしれませんが、約束や期限を守れない人は日本社会では信用されなくなるということを本人にはっきりと伝えてください。

[Q35] 授業料を滞納している留学生がいる。

授業料を滞納すると、日本人学生と同様に除籍扱いとなり、所定の学位を取得することができません。留学生が学位を取得する意思、卒業する意思があるかどうかを確認し、もしその意思があるならば、できるかぎりの方法で授業料を工面するように伝えてください。

[Q36] 留学生が、在留資格を「家族滞在」または「日本人の配偶者」に切り替えたいと言っているが、どんなことに注意をすればよいのか。

在留資格を「家族滞在」あるいは「日本人の配偶者」に切り替える場合は、留学生本人が入国管理局に申請しなければなりません。留学時に在留資格を取得する際は名古屋大学が入国管理局に代理申請を行い、この証明書を携えて本人が自国の日本大使館あるいは総領事館でビザ発給の手続きをとっています。これに対して、在留資格を変更する際はすべて本人が入国管理局で申請しなければなりません。在留資格を変更したら、すみやかに事務窓口に報告するように伝えてください。在留資格「留学」を他の在留資格に変更すると、留学生対象のチューターや奨学金などは対象外となります。アルバイトのための資格外活動許可申請も、従来の在留資格で取得した許可は無効になります。これらの点に十分に注意するように伝えてください。

[Q37] 留学生が留年すると在留資格や奨学金、授業料免除などに影響するのか。

留年するしないにかかわらず、在留資格には更新手続きが必要です。標準修業年限内の正規生は2年もしくは1年毎の更新で、留年者と非正規生(研究生)は1年毎です。国籍を問わず、留年している者または最短修業年限を越えた学生は、原則として授業料減免申請をすることはできません。また、民間奨学金の募集においては、留年者が申請できるものはほとんどありません。

[Q38] 母国にいる家族が病気になったので、突然帰国したいと留学生からメールがあった。すぐに携帯に電話してみたがつながらない。

母国の家族に問題が発生すると、留学生は一時的にパニック状態に陥り、冷静な判断ができなくなることがあります。すぐに学生にメールを送り、現在の所在と状況を早く知らせるように伝えて下さい。念のため、部局の留学生担当教員と事務担当者に連絡して下さい。留学生が一時帰国する際には、必ず事務手続きをさせるようにしてください。また、受講している他の授業の担当教員にも連絡をしていない可能性がありますので、指導教員は必要に応じて他の教員に連絡してください。

[Q39] 留学生から妊娠しているとの報告があった。指導教員としてどう対応すればよいか。

在学中に妊娠・出産を経験する留学生は少なからずいます。妊娠3~4カ月の安定期に入ったころに、本人から指導教員に報告するケースが多いです。留学生から報告を受けたら、まずは、新たな命の誕生を祝い、同時に本人の意思を尊重・配慮しつつ、休養期間および育児時間を考慮して、論文作成などの研究計画を柔軟に見直すようにアドバイスしてください。初めての出産の場合は、出産・育児に伴う時間的・体力的負担を十分に予測できず、本人はつい無理な計画を立ててしまうことがあります。場合によっては、休学や修了時期の延長も考えられます。出産に伴う費用の準備も必要です。適当な時期にじっくりと相談してください。

[Q40] 留学生から子どもを保育園に行かせたいと相談を受けた。

東山キャンパスには、大学が運営する「こすもす保育園」と、名古屋市の認可保育園「どんぐり保育園」があります。「こすもす保育園」には、共働き夫婦のために小学生を預かる学童保育所「ポピンズアフタースクール」も併設されています。ただし、空き状況などの条件により、必ずしも入園できるとは限りません。これらを利用しようと思う留学生は、できるだけ早く情報収集をして準備する必要があります。出産費用や保育園についての情報は、留学生相談室はもちろん、住んでいる地域の区役所でも得ることができます。
参考リンク:留学生の配偶者や子どもへのサポートについて知りたい

[Q41] 留学生から、自分の親を日本に招聘するための保証人になってほしいと頼まれたが、どうしたらよいか?

いくつかの国を対象に、そこからやってきた留学生が親族を日本に招く際には、日本側の保証人が必要となります(ただし、必ずしも日本人が保証人になる必要のない国もありますので、留学生によく調べるように伝えてください)。保証人には親族の日本滞在中の責任や帰国させる義務などが生じます。信頼できる留学生であれば、保証人になることにほとんど問題はないでしょう。保証人になることで留学生との間に信頼関係が高まることもありますので、むげに断る必要はありません。

とはいえ、滞在中に親族が病気や事故にあう可能性も否定できませんので、保証人を引き受ける場合は、親族が必ず海外旅行保険に加入することを条件にしてください。また、単に保証書にサインするだけでなく、親族の滞在中の行程を記した書類等のコピーを保管しておいてください。
参考リンク:留学生から、親族が一時的に日本を訪問する際の保証人になってほしいと頼まれた

[Q42] 留学生が日本で就職したいと言っているが、就職に関する情報をどこで入手できるか。

留学生相談室では留学生に特化した求人情報を提供するとともに、留学生対象の会社説明会の開催、就職活動支援コースを開講して、留学生の就職を支援しています。留学生の就職関係の刊行物など参考になるものもそろえていますので、ぜひ利用するよう留学生に伝えてください。また、学生総合支援課の就職支援室では、年間を通じていろいろな就職関係のイベントを全学対象や学年別に開催しています。企業人事担当者や先輩の話を聞けたり、職種別の講座もあります。12月には就職活動学年を対象とした企業研究セミナーが学内で開催され、約400社が参加します。
参考リンク:留学生の就職情報について知りたい

2-3. 学習を支援する

[Q43] 授業の前提となる留学生の基礎学力にばらつきが大きい。

こうした声を寄せる教員は少なくありません。しかし本来ならば、入試の時点で一定の基礎学力が担保されているはずです。それでも受け入れた留学生の基礎学力が不足している場合には、チューターや留学生担当教員と相談して対策を考える必要があります。自習用の基本文献を紹介する、勉強会や補講を行って基礎学力を補うなどの事例が報告されています。

[Q44] たびたび授業を欠席する留学生がいる。

初回の授業のときに、無断で欠席してはいけないこと、また欠席する場合はメールでもよいので担当教員に連絡を入れることなどを受講者に伝えるとよいでしょう。また、次回の授業に留学生が出てきたら、「元気でやっていますか。何か困っていることはありませんか?」と声をかけると、出席への励みとなる場合が多いようです。ひんぱんに授業を欠席するようならば、身辺に何か問題が起きているかもしれませんので、一度本人と直接話をしてみてください。チューターや留学生担当教職員とも相談するとよいでしょう。

[Q45] 友だちがいないのか、レポート、試験、掲示やレポート課題に気づかない留学生がいる。

その留学生は、授業中の指示を十分に聞き取れていない可能性があります。日本語能力が不足しているようでしたら、留学生センターが提供している日本語の授業を履修するように勧めてください。その場合、学生の心情を考えて、他の学生がいるところでアドバイスするのではなく、あとで個別に伝えるのがよいでしょう。また、レポートや課題はできるだけ口頭による指示ではなく、書面でシラバスや掲示板などに周知すると効果的です。

留学生に限らず、授業の中で一部の学生が孤立しているように見受けられることがあります。授業の中で学生同士が協力して学ぶような活動を取り入れたり、他の学生と協同で調査・制作するような課題を与えてみてはいかがでしょうか。

[Q46] TAは単なるアルバイトであるという認識を持っている留学生がいる。

TAやチューターに求められる具体的な職務内容について、採用予定の学生に対して明確に説明してください。これらの職務内容は、学部・研究科、科目や担当教員によっても異なります。TAやチューターを採用する際は、この仕事は単なる雑用係ではなく、学生に対して責任を伴うものであること、一定の教育業績にもなりうることを伝え、採用後は彼らと話し合う機会を定期的に設けてください。職務の進捗状況について随時話し合うことが大切です。

[Q47] 授業内容を理解するための日本語能力が不足している留学生がいる。

こうした意見を寄せる教員は少なくありません。しかし、本来ならば、留学先での学習に必要な日本語能力は入試の時点で吟味されるべきです。授業に際して、日本語能力を差し引いて基準を大幅に緩和して点数をつけるようなことは、公平性の観点からも、教育的な観点からも望ましくないでしょう。そうはいっても、何らかの教育的配慮は必要かもしれません。多くの教員は、シラバス、板書などを英語で表示する、キーワードを英語で表現する、レポート課題や試験を英語で回答することを認めるなどの方法で対応しています。

[Q48] ディスカッションで英語・日本語を繰り返して二度手間になってしまい、時間のロスが大きい。英語のよくわからない日本人学生、日本語のよくわからない留学生を同時に教えるのに苦労している。

これも多くの教員から寄せられた意見の一つです。複数言語での授業は、教員にとっては時間的かつ精神的な負担が大きくなります。名大教員へのアンケート結果からは、英語の資料を使いながら授業は日本語だけで行う、日本語で話しながら英語で板書する、またはその逆、あるいは翻訳版がある教科書を用いて一言語で行う、などの工夫が報告されています。また、日本人学生は英語での授業に不安を感じる傾向がありますが、彼らにとっても専門分野を英語で学ぶことには大きな意義があるということをメッセージとして伝えてください。

[Q49] 研究生の場合、聴講という感覚で授業に出ている人がおり、出席が気まぐれになりやすい。

初回の授業で、研究生にも正規学生と同様の授業参加が求められるということを伝えてください。シラバスにもその旨を明記するとよいでしょう。逆に、あまり授業への参加意欲が高くない研究生には、場合によっては参加を断ることが必要かもしれません。

[Q50] 報告や議論という演習形式に慣れていない留学生がいる。

これまで受けてきた教育によって、留学生にとってイメージしにくい形式の授業があるかもしれません。Qとは反対に、講義形式にはどうしても慣れることができないという学生もいるようです。留学生が報告や議論を中心としたセミナー形式の授業に慣れていない場合は、日本の大学がどうしてそのような形態を重視しているのかを留学生に考えさせる機会を与えてください。講義中心の受身の学習だけでなく、自分から積極的に議論に参加して、切磋琢磨した結果、はじめて獲得できる知見や真理があるということを伝えてください。

いきなり発表を引き受けることは、ある学生にとっては難しいことかもしれません。その場合は、最初は他者の発表に一言でよいのでコメントしてもらう、次は指定コメンテーターとしてあらかじめ準備して質問する、次に報告者になる、司会者になる、などの役割に順々に慣れていくという方法もあるでしょう。また、最初は少人数のグループでディスカッションを行い、後で全員にフィードバックすることにより、人前で意見を発表することに慣れるという方法もあります。

特定の留学生だけが積極的に発言して、一般の学生や他の留学生が沈黙してしまうような場合は、発言機会の少ない学生の出身国・地域等の話題を取り上げ、これに関連する質問を投げかけるのも一つの方法です。

[Q51] 授業中のディスカッションで留学生の日本語表現力が不十分だと感じる。

運用能力が十分でない言語で話す場合、語彙や表現力が足りないことから、意図と異なることを発話してしまい、つじつまを合わせるためにまた思わぬ流れになってしまうというように、発話内容が悪循環に陥りがちです。これを克服するには、語彙や表現力を伸ばし、訓練を積むしかありません。同時に、聞き手は発話内容だけから話者の知的能力を判断しないように注意が必要です。また、母語でない言語でディスカッションに参加すること自体が大変なプレッシャーを要するということを日本人学生にも理解してもらう必要があります。留学生の発言を応援するような雰囲気をつくりだし、参加者全体のディスカッション力を上げていくことが重要でしょう。
コラム3:外国語を話すと内容が幼稚になる?

[Q52] 留学生にとって政治的に微妙な問題について他の学生が質問したり、問題提起した時に、教員としてどのように対応すればよいか?

日本の社会では表現の自由が保障されているとはいえ、政治的な話題を取り上げることが適当でない場面もあるでしょう。政治的な話題は特定の留学生を傷つけ、授業に参加する意欲を低下させる恐れもあります。特に、言論の自由が必ずしも保障されていない国からの留学生が受講している場合には注意が必要です。時には、「その問題は大切ですが、この場で議論するのは適切ではないと考えます。」と言う必要があるかもしれません。

ただし、分野によっては政治的な問題を扱わざるを得ない場面もあるでしょう。その場合はあくまで学問対象として議論すること、留学生に意見を押しつけたり発表を強制しないこと、多様な価値観や考え方があることを尊重するなどの留意が必要です。

[Q53] 留学生から「先生の話し方はわかりにくい」と言われた。

留学生は日本語の慣用表現、和製英語、カタカナの外来語などについて理解しにくいかもしれません。留学生が受講している場合は、できるだけキーワードをゆっくりと話す、キーワードを板書する、英語と日本語で併記するなどの工夫が考えられます。和製英語を用いる場合は、それが原語の語義通りなのか、あるいは日本語ではどのように語義が異なるのかを説明するとよいでしょう。
コラム6:高コンテクスト文化と低コンテクスト文化

[Q54] 受講生が多数いるなかで、留学生が授業内容を理解しているかを個別に確認することは難しい。どうしたらよいか。

たとえば、毎回の授業の最後に受講者に記名式のコメントカードを書いてもらい、それをTAに集計してもらうのはどうでしょうか。コメントカードは日本語でも英語でもどちらでもOKにすれば、かなり書きやすくなると思われます。小テストを実施して理解度を確認するのもよいでしょう。

[Q55] 授業中に帽子をかぶったままの留学生がいる。注意してよいのだろうか。

授業の基本ルールについては、シラバスに明記するなり、初回の授業のときに受講者にはっきりと伝える、または授業の細かいルールを受講者と話し合って決めるなどの方法をとってください。授業中に帽子をかぶったままでいることなどが、教員や他の学生にとって不快であると判断されるのであれば、個別にその旨を伝えてください。ただし、ケガや病気、宗教的な理由などにより帽子やスカーフをかぶっていると思われる留学生に対しては配慮が必要です。

[Q56] 留学生から、旧正月の前に帰国したいと言われた。まだ後期の授業が残っているし、期末試験もある。どうしたらよいか。

履修途中で一時帰国するような場合は、やむを得ない事例を除き、受講者としての責任をきちんと果たすように伝えてください。代替措置としては、休む回の課題をあらかじめ提出させたり、レポート課題を出すなどの方法があるでしょう。

多くのアジア出身留学生の場合、旧正月(中国では春節、韓国ではソルラル、ベトナムではテト、モンゴルではツァガーンサル)は家族にとって重要な意味をもちます。イスラム暦やイラン暦もそれぞれの正月があります。また、キリスト教徒の人にとってはクリスマスが一年で最も重要な日なので、家族と過ごすために授業や補講に出られないと申し出る学生がいるかもしれません。

日本では旧正月やクリスマス休暇の習慣がないので、一時帰国したいときは、受講申請する際に担当教員に申し出るようにさせてください。特に旧正月の時期はちょうど後期授業の最終回や期末試験にあたることが多いです。試験を受けられないのであれば、あらかじめ他の成績評価手段を考えなければなりません。「旧正月ですから帰国します」と直前になって連絡したり、無断で欠席するのは認められないということをはっきりと伝えて下さい。

2-4. 研究指導を行う

[Q57] 研究室内のメンバーの英語レベルに差があり、コミュニケーションがうまく取れないことが多々ある。日本人大学院生の英語能力が必ずしも十分ではないので、学生間のコミュニケーションがうまくいかない。

研究室内における留学生の日本語能力不足、日本人学生の英語能力不足は多くの教員が指摘しています。留学生が日本語能力を高めるように支援することは大事ですが、同時に、専門分野の内容について英語で議論をすることは日本人学生にとっても重要です。この際、研究室全体の英語力アップをめざすのもよいでしょう。たとえば、専門用語の日英対訳集を作ってみたり、日本人学生にも定期的に英語で発表させるなど、教員側からいろいろ工夫することが可能です。

[Q58] 個々の大学院生に対する研究指導が不公平だと留学生から指摘された。

研究指導では、大学院生の研究内容や個性に応じて指導方法が異なるのは当然のことです。しかし、ある学生には丁寧に指導し、別の学生には自主性に任せるような場合、学生側が不公平感を感じることがあるかもしれません。まず、研究指導の基本ポリシーを研究室の学生全員に示してはいかがでしょうか。論文指導を受けるのは早い者勝ちなのか、それとも別のルールがあるのか。ゼミ発表する際に学生が準備することなどについて、あらかじめ伝えておくとよいでしょう。

[Q59] なかなか指導教員に会えないとの苦情が留学生から寄せられている。どう対応したらよいか?

大学教員と面談するのに予約(アポイントメント)をとる習慣がない国は少なくありません。そういう国から来日した留学生には、日本の大学の人間関係がビジネスライクに映るかもしれません。まず、日本の大学において教員と面談するためには、事前に予約する必要があるということを留学生に伝えてください。教員が忙しくて面談の予約をとれないのなら、メールを活用するなどの代替案を留学生に提案してください。

[Q60] 同じ研究室内で留学生と日本人学生の間に異性関係のトラブルがあった。どのように対応すればよいか。

こうした問題を突き詰めていくと、大学教員が学生のプライバシーにどの程度介入してよいのか、という本質的な問いにつきあたります。研究室の運営に支障をきたしているような場合、学生の学習・研究活動が大きく減退しているような場合は放置すべきではないでしょう。中立的な立場から関係する学生に事情を慎重に聞いてみてください。学生の個人情報の取り扱いにはくれぐれも注意してください。

留学生が研究室内でどのように過ごしているかについて、教員はふだんから気にかけておきましょう。問題が深刻な場合は、各学部や研究科の留学生担当教員あるいは全学の留学生相談室に相談すると、よい方法が見つかるかもしれません。

[Q61] 留学生が研究室のなかで孤立しがちである。どうしたらよいか。

留学生が研究室内で孤立してしまう原因は何でしょうか。留学生の日本語能力に問題があるなら、留学生センターで開講している日本語の授業を受講するように勧めましょう。日本人学生の英語能力に問題があるのなら、前述のように、研究室全体の英語力を高める方策を考えるとよいでしょう。もし言語の問題ではなくて、文化的な要因によるものだとしたら、別のアプローチが必要かもしれません。留学生がホームシックになっているような場合は、教員から積極的に留学生に声をかけ、相談にのるだけでも彼らの気分が和らぐことがあります。コンパや旅行、スポーツ大会、合宿など、研究室内の人間的なつながりを深めるための活動を企画するのも一考です。それでもうまくいかない時は、場合によっては、所属研究室を変更することを検討する必要があるかもしれません。
コラム10:留学生に活躍の機会を与えよう

[Q62] 子どもの世話に忙しかったり、病気がちだったりして、勉学時間が十分とれない留学生がいる。

留学生に限らず、学生にはやむを得ない事情で学習・研究に十分に打ち込めないことがあります。その状況では、学生自身が焦っていることも多いので、教員側から必要以上にプレッシャーをかけないように注意が必要です。また、なかなか時間をとれない状況でもコツコツと学習・研究を進められる方法を考えるなど、長い目で学生を見守るようにしてください。
参考リンク:留学生の配偶者や子どもへのサポートについて知りたい

[Q63] 留学生が休学をしたいと言っている。どのように対応すればよいか。

留学生がなぜ休学したいのかを確認して下さい。たとえそれが経済的な理由であっても、休学中にアルバイトをすることは認められていませんので、いったん帰国することを勧めてください。

休学願の提出期限については教務に確認する必要があります。その場合、直前ではなく時間的な余裕をもって教務窓口に相談するように伝えてください。また、休学中は在留期間の更新手続を行うことができませんので、復学時に再度取得手続を行う必要があります。休学前にアパートを解約する場合、名古屋大学留学生後援会による賃貸住宅連帯保証に加入している人は国際学生交流課で手続きする必要があります。休学するために、むしろ一時的に多額の費用がかかることがありますので、留学生にはくれぐれも慎重に検討させてください。

[Q64] 研究計画書に書かれた内容と来日後に本人が希望する研究内容が異なっている。

こうした現象には、いくつかのケースが考えられます。第一に、来日後に学習環境の変化に伴って研究関心が大きく変化したケース。第二に、本人が研究計画書を作成する際に、合格しやすいように、受け入れ教員の専門分野に近いテーマを設定したケース。この場合は、本人が実際にやりたいテーマは別にあるかもしれません。第三は、最悪の場合ですが、研究計画書を本人ではなく、留学仲介業者などの第三者が作成しているケースです。対応方法としては、(1)研究計画書を本人が書いたものであるかどうかを受け入れ時に入念にチェックする(口頭だけで研究計画についてやりとりするなど)、(2)教員の研究テーマに安易に合わせているような研究計画書になっていないかを厳しく精査する、(3)入学後に、安易に研究テーマを変えることは望ましくないということを留学生に伝える、などの方法が考えられます。

[Q65] 受験時や入学時の意気込みとその後の差が大きく、なかなか研究がスムーズに進まない留学生がいる。

留学生の学習意欲が低下した原因について本人と話してみてください。たとえばホームシックが原因かもしれません。異国で初めての一人暮らしに心細くなっているかもしれません。チューターとよく相談する機会を設けたり、同じ国から来ている留学生を紹介したりして、学生同士のコミュニケーションを増やす機会を提供するのも一考です。

あるいは、留学生の生活環境に問題があるかもしれません。大学内の留学生宿舎には原則として半年間しか入居できません。アパート探しや引っ越しにいろいろ手間取っているかもしれませんので、指導教員は留学生が困っていないか、ときどき声をかけるとよいでしょう。日本語能力に問題がある場合ならば、日本語の授業を履修することを勧めたり、同じ分野の日本人学生を紹介することも考えられます。

[Q66] 博士後期課程の留学生には3年間で確実に学位を出すことを優先するので、おのずと研究テーマが限られてしまう。

受け入れた留学生が最短期間での学位取得を望んでいるか、それとも多少の期間延長と経済的負担を覚悟した上で、より本格的な研究テーマにチャレンジしたいと考えているかどうかについて、進学時に留学生本人に直接確認する必要があります。本学の課程博士は後期課程進学後、6年以内であれば授与されています。つまり、制度上はD3満期退学後も3年間の猶予があります(医学系を除く)。とはいえ、留学生にとってはビザの在留期間更新のために在学延長する必要があり、延長分の授業料や生活費も必要になります。指導教員は留学生のそうした事情を考慮した上で、彼らがどのようなニーズを持っているのかをよく確認してください。
参考リンク:留学生に適した研究指導方法について知りたい

[Q67] 別の教員から引き継いだ留学生については、前任者と私の研究指導方法に関する考え方の違いから、留学生を少し戸惑わせてしまったようだ。

指導教員の途中交替は、留学生に限らず大学院生に大きなストレスとなることがあります。やむを得ない理由により、自分が指導してきた留学生を別の教員に引き継ぐ際には、これまで留学生との間で交わしてきた話し合いのプロセスや合意した研究方針・内容について記録やメモに残し、新しい指導教員に引き継ぐことが大切です。自分が留学生の指導教員を途中から引き継ぐ場合は、前任者と留学生の間で合意された内容をできるだけ尊重すると同時に、自分なりの研究指導の方針を明確に伝えましょう。
参考リンク:留学生に適した研究指導方法について知りたい

[Q68] 学位をとれないのは指導教員の責任であるという意識をもつ留学生がいた。

指導教員が果たすべき役割について、指導教員と留学生の間で誤解が生じているかもしれません。留学生を受け入れる段階で、あなたが指導教員として彼らの学位論文作成にどのような支援を行うのか、どのような役割を果たすのかについて、よく説明して留学生の了解をとってください。留学生が困ったときに指導教員はどのように対応するのかについて、最初の段階で彼らに明確に伝えておきましょう。
参考リンク:留学生に適した研究指導方法について知りたい

[Q69] できていないことでも「できた」と答えるなど、その場限りの返事をしがちな留学生が見受けられる。

外国語で質問された際に、本音ではノーなのに、ついイエスと答えてしまうことが少なくありません。ノーと意思表示すること自体が、相手に対して失礼ではないかと思ってしまう留学生もいるかもしれません。場合によってはノーをはっきり表示することが重要であり、指導教員としてはむしろそれを歓迎するという姿勢を示せば、留学生もノーと言いやすくなるでしょう。

[Q70] 日本になじまないような態度を遠慮なく見せる留学生がいる。日本人学生がやや不快に受け取ることもある。受け入れ教員としてどの程度指導すべきか。

どうしてそのような態度をとるのか、他の学生がいないところでその留学生に尋ねてみて下さい。その留学生は日本での生活や学習について、何らかの思い込みや偏見を抱いているかもしれません。もし誤解に基づくものならばそれを説明してください。また、日本特有の考えや価値観から日本人学生が不快に感じているようであれば、教員は中立的な立場から学生たちにアドバイスして下さい。
参考リンク:留学生がメンタル面の問題を抱えている

[Q71] 何でもメールで済ませようとする留学生がいる。

これは今日の多くの学生にみられる傾向かもしれません。若者の間で、コミュニケーションに対する考え方が変化しているのかもしれません。留学生の場合は、直接話すことに苦手意識をより強く持っていることもあり得ます。必要に応じて、重要なことはメールではなく、直接会って伝えてほしいと教員からはっきり意思表示しましょう。

[Q72] 「なんでもとりあえずコピーする」という姿勢の留学生がいる。

そういう留学生には、なぜコピーすることがよくないのかを説明して下さい。彼らが安易にコピーしてしまう背景には、母国ではコピー行為がありふれており、教員すら気に留めていない社会背景が存在しているかもしれません。子どもの頃から慣れ親しんだ習慣や、母国では家族や学校の教員も当然視している行為について、それが日本では認められないことだけを訴えても、彼らの意識を変えるのは容易ではありません。

知的所有権や著作権には他者の知的成果を尊重するという意味が込められていることを伝えて下さい。そして、日本の大学で学び、研究を行う際には、それらを守ることが必須であり、不注意では済まされないということをはっきりと伝えることが重要です。

[Q73] 専門分野の研究手法を身につけていない留学生がいる。

各学部・研究科において、入学時点でどの程度の専門知識や研究能力が求められているのでしょうか。各専門分野に必要な基礎知識は国によって異なる場合があります。留学生によっては、母国における学士課程の大部分を日本語習得に費やしており、大学院で日本留学する際に専門分野を決める場合も少なくありません。この場合、留学先の学問分野に関する知識が十分でないケースがみられます。

教員と留学生の双方にとって不幸な状態を招かないためにも、入学時に最低限身につけておくべき基礎知識や研究能力について、あらかじめ志願者に明示するのが望ましいでしょう。学部・研究科単位でそうした基準が明確になっていない場合は、研究室や講座単位で受け入れ基準を設けるという方法もあるでしょう。あるいは、自習用の教材を紹介したり、追加受講すべき授業について明示してください。

[Q74] 一定水準の知識はあるのだが、自分で考える習慣に乏しい留学生がいる。受身的な学習は得意だが、自主的に研究をさせようとすると、困惑してしまう場合がみられる。

こうした意見は多くの教員から寄せられています。世界の少なからぬ国・地域では、学校教育は教員が知識を一方的に伝達する講義方式が主流となっています。その際に学生に求められているのは、与えられた知識を忠実に吸収することであり、与えられた知識の是非を疑ったり、批判的に検証することではありません。教員の主張を相対的に受け止めて、自分なりに再解釈するという考え方は欧米諸国や日本の大学では奨励されていますが、この考え方が世界のすべての国の大学教育に当てはまるわけではありません。こうした国・地域からやってきた留学生はセミナーやディスカッション、輪講などの意味を理解できない、あるいは教員が知識を体系立てて教えてくれないと不満に感じることがあります。

指導教員としては、留学生に次のような意思表示をしてはどうでしょうか。日本の高等教育では学習・研究について次のようなスタンスをとっていること、すなわち最新の知見は形成途上であり、必ずしも定式化されているわけではないということ、教員の意見はさまざまな意見のうちの一つの見解に過ぎないこと、教員は学生の多様な意見を尊重すること、研究には能動的な学習姿勢が不可欠なこと、自分の知見に磨きをかける上で周囲の教員・学生と議論を重ねることが大事なこと、研究活動においては知識の獲得以上に研究方法論の習得が大きな意味をもつこと、などです。

[Q75] 先行研究がないと安易に断定する留学生がいる。先行研究を踏まえて論を立てていくことに困難を感じているようである。

国・地域によっては、先行研究を調べるということの意味が日本と異なる場合があります。留学生の出身国の学術論文では、先行研究がどのように扱われているのかを尋ねてみましょう。あるいは、留学生の出身国では、学術論文が政府見解や先行研究を羅列しただけになっている場合もあるかもしれません。そういう場合は、「論を立てる」ということの意味自体を説明する必要があるでしょう。

日本で学習・研究する際に、先行研究を調べるとはどういうことを意味するのか、なぜ先行研究を検証する必要があるのか、仮説を立てて検証するとはどういうことかを丁寧に説明してあげて下さい(たとえば日本人の大学院生にこのことを説明させるのもよいかもしれません)。留学生の母国と日本では、この点でどのような相違があるのかを留学生によく理解させて下さい。