科学を発信する

本を書く

まとまったある程度詳細な内容を広範囲の一般読者に伝えようとすれば、書籍は依然として最も有効な媒体だと思われます。スティーブン・ジェイ・グールドやファインマン、ホーキングの本は、つねに書店の科学書コーナーの中心を占めていますし、国内でも毎年のように科学関係の一般向け書籍はベストセラーの仲間入りをしています。ここでは、あなたが一般読者に科学を伝えるための書籍を出版したいと思ったときに考えるべきことがらをまとめておくことにします。

1 そもそも私は本を書くべきか?

まずは、この問いを十分に考えるべきでしょう。本人も納得できるような一冊の書物を書き上げるには膨大な時間がかかるうえに、通常、その見返りはとても少ないからです。そうすると、これだけの犠牲を払っても本という形で人々に科学を伝えたい、という一種の使命感のようなものが必要になるでしょう。というわけで、あなたは最低限、次の問いに答えを出しておかなくてはなりません。

  • 自分は科学の何を、どのような人々に伝えたいのか、伝えてどうしたいのか(科学のおもしろさを理解してもらいたいのか、警告したいのか、等々)。
  • 自分がターゲットにしようとしている人たちは、何を知っているのか、何を求めているのか
  • 自分が書こうとしている話題が、本という形式で伝えるのに適しているか
  • 他に同じような本がすでにあるだろうか。あるとしたら、自分の書こうとしている本はそれらとどこがどう異なるのだろうか
  • 執筆に少なくとも半年、長くて一年間の時間を割くことができるだろうか、タイムリーに出版できるだろうか

2 企画書を書く

編集者から頼まれて執筆する場合でも、あなたの方から出版企画を持ち込む場合でも、編集者はその企画を編集会議にかけて、了承を得なければなりません。そこで、説得力のある企画書を作成する必要があります。

出版企画書(A4 数枚)には次の情報を盛り込みます。ポイントは、編集者が企画会議を通すのに役立つ情報を提供するということです。

  • あなたの履歴、専門分野、過去の出版物のリスト(抄)、連絡先
  • 仮タイトル
  • 本の概要(数行)
  • 本の構成案(全体の分量、章のタイトル、各章の内容の概要を3〜4行)
  • 本の位置づけと意義(想定する読者、類書にはない特色、なぜこれを出版する必要があるのか)
  • 見本の章
  • 原稿の完成予定期日

興味を持ってくれる編集者が現れたらしめたものです。あとは編集者と相談しながら、企画を詰めていきます。

3 原稿執筆時に気をつけるべきこと

  • すぐれた編集者ほど、原稿に注文をつけてきます。自分の書いた文章に対していろいろ言われるのはあまり愉快なことではないかもしれませんが、編集者は読者代表です。彼らのアドバイスには必ずくむべき点が含まれています。「書いてやっている」でも「書かせてもらっている」でもなく、本という作品をつくりあげる共同作業をしているのだと考えてください。
  • 商業出版の場合、原稿はほとんどの場合、組版し直します。ですから、原稿のフォントやレイアウトにこる必要はまったくありません。組版の時の指示が書き込みやすいように、余白や行間を十分にとっておけばそれで十分です。

4 原稿を書き終えたら

原稿を書き終えたら、出版社に送る前に、学生や家族などに一読してもらい、コメントをもらって訂正しましょう。少し長めに書いて、無駄な表現をどんどん削っていくと、ひきしまった文章になります。

参考<書評>
まず、書評はあなたの考えを開陳するものではなく、まして感想文ではありません。読者に本の内容と位置づけと価値についての情報を提供するための、あくまでも専門家としてのサービスだということを忘れてはなりません。したがって、少なくとも次の情報は盛り込まれていなければなりません。
  • その本は何を目指して書かれたのか
  • その本の内容の要約
  • 著者はその目的をうまく果たせたか(その本のすぐれた点、独自性、特色、足りない点があるとしたらどこか)
  • その本の位置づけ(著者のこれまでの仕事の中での、その学問分野での、現代社会での、出版界での)
書評対象の出来があまりにひどく、書評に値しないと考えた場合は、無理をしないで断った方がよいでしょう。書評対象に反論したいなら、それは書評としてではなく、別の記事として書くべきです。編集者と相談して、そのためのスペースを提供してもらえるかを確認しましょう。