1:コースをデザインする
2:授業が始まるまでに
3:第一回目の授業
4:日々の授業を組み立てる
5:魅力ある授業を演出する
6:学生を授業に巻き込む

7:授業時間外の学習を促す

学習を上手に促す課題を与えよう
学生の書く力を伸ばそう
オフィス・アワーなどを通した学生指導
8:成績を評価する
9:自己診断から授業改善へ
10:学生の多様性に配慮する

 

7章 授業時間外の学習を促す

 

7.1 学習を上手に促す課題を与えよう

7.1.1 まずは無理なくスタート

  ここで扱おうとしているのは、学生を成績評価するための課題ではなく、学生の授業外の学習を促すための課題です。したがって、初めから学生が負担に感じる「重い」課題を与え、学生の意欲をそいだり、最悪の場合、コースからドロップアウトさせてしまうのでは意味がありません。コースを通じて適切な量の課題をまんべんなく与えていくこと、初めのうちは学生が取り組みやすい課題を与えていくことが重要です。

  • 学生がどの程度の能力と知識をもっているかを把握し、最初のうちはすべての学生がすでにもっている知識・技術を用いて取り組めるような簡単な課題を用意する。
  • 無難な課題と、少々骨が折れるが挑発的でやりがいのある課題、個人で取り組める課題かグループで行う課題、というように、課題の形式、内容についていくつかの選択肢を用意する。あるいは、中間試験を受けてもよいし、小論文を書いてもよい、というような選択肢もありえます。

 

7.1.2 やらせっ放しは禁物、課題は必ずフィードバック

  学生から課題を提出してもらったときには、すぐになんらかのフィードバックを行うことが重要です。課題を提出しても教師側からなんの反応も返ってこないとなると、学生は、せっかく課題を果たしても自分の向上につながるものを得ることができないことに気づき、課題を通じて学ぶ意欲を失ってしまいます。こうなると、学生から提出される課題はますますノルマを果たすだけの手抜きのものとなり、教師はそのような手抜きの課題にがっかり、という悪循環が始まります。

  理想的には、課題や小論文はすぐに採点、コメントして返却すればよいのですが、大人数の授業の場合なかなかそうもいかない、TAにまかせることもできない、ということもあるでしょう。そのような場合は、次のティップスを参考にしてください。とにかく、なんらかの形で学生に提出した課題についてフィードバックを与えることを怠らないようにしましょう。

大人数の授業で課題を効果的にフィードバックするためのティップス

 

7.1.3 学生にポートフォリオを作らせる

  さまざまな課題をやりっ放しにさせないもうひとつの方法は、学生に学習ポートフォリオを作らせることです。学習ポートフォリオとは、その学生がコースを受講する間に作成した成果物を蓄積した学習記録ファイルです。たとえば、次のようなものを挟み込みます。

  • 提出し添削を受けた模範課題
  • コースに関連して学生が自分で調べたこと、コメントしたことのすべて
  • 中間試験の答案、その模範解答

  こうしたポートフォリオの利用は、学生にとっても教師にとっても、メリットがあります。学生は、自分がコースを通じてどのように進歩してきたかを常に一覧することができます。どれだけの課題を提出したか、あとどれだけの課題が控えているのかなどが自己管理できます。教師にとっては、期末にポートフォリオを提出させることで、それぞれの課題をそのつど採点したり、各学生の課題の提出ぐあいをそのつど記録にとどめたり、学生からの「先生、ぼくはいくつ課題を出しましたっけ?」という質問に悩まされずにすみます。

コラム:学生の時間外学習をどう考える?

 

7.2 学生の書く力を伸ばそう

 かつて日本の大学の授業では、試験の代わりに最後にレポートで評価し、そのレポートは返却されないから学生は自分の出来映えについて知ることはできず、かくして「書けば単位もらえるからラッキー!」という悪習が定着、というのが典型でした。こうした旧来のやり方のまずい点は次の3つです。

  1. フィードバックがないため、学生は書くことを通じて学ぶことができない。
  2. コースの最後に一回だけ書かせるという単発的なやり方のため、学生に書くことのスキルが身につかない。
  3. 「レポート」という単一のカテゴリーにすべてのライティングを押し込めているために、学生は目的に応じた文章の書き方を意識することを身につけることができない。

  第1の点についてはすでに述べましたので、ここでは第2、第3の点について詳しく述べましょう。学生はひとつのコースを通じて、何度かの機会にわたって複数のタイプの文章訓練を受けるのが理想的です。とくに、学期末論文においては、それが形式面でも学術論文に準じたものになるようにトレーニングされるべきです。逆に、こうした訓練を1年生のころから行っていれば、卒業論文制作時に、論文の形式上の事柄について口うるさく指導せずにすむわけです。なんでもかんでも「レポート」と呼んでしまう日本の大学での風習には、そろそろさよならを言うべきときが来ているのではないでしょうか。

 

7.2.1 学生がコースで書く文章のタイプと目的

1. リアクション・ペーパー、ミニット・ペーパー、質問カード

  呼び方はさまざまあるようですが、授業中や授業終了後、比較的時間を置かずに書かれるもので、授業のまとめ、授業についての感想や質問を形式にこだわらずに書く、比較的短いもののことを指します。学生による授業評価のために用いられることもあります。

2. ログ(log)

  授業外での学習を促す目的で課される短い報告のことです。たとえば、授業に関連した課題図書や課題論文を読み、その内容をまとめたうえで、それについての疑問、コメントなどを書くものです。コースの間に複数回課されることがふつうです。

3. ターム・ペーパー(学期末論文)

  文字どおり、コースの最後の仕上げに書かれる小論文のことです。これは内容の構成(導入・本文・結論)、執筆の形式(注・参考文献一覧)ともに、学術論文の体裁で書くように指導されます。

4. 実験結果報告

  科学実験や観察を行ったときに、その結果を報告するために書く報告書です。

  重要なのは、これらの文章はそれぞれ書く目的が異なり、それに応じて適切な書き方も異なるということを、たとえばシラバスに明示するなどして、学生にきちんと伝える、ということです。それを怠ると、「この課題を見たとき、しまったと思いました。というのは……」で始まり、「というわけで、そろそろ枚数が足りてきたみたいなのでこの辺で筆をおきます」で終わるような「論文」を読むはめになります。

 

7.2.2 学期末論文の書き方をどのように指導するか

  さて、問題は、きちんとした学期末論文を学生に書かせるにはどのような指導を行ったらよいか、ということです。これまでは、学生自身の試行錯誤に任されていたように思います。理想的にはごく少人数のクラスで、個別の添削指導を行うということになりますが、ここでは比較的大人数の授業での指導法を考えてみましょう。いつくつかの方法が考えられます。

  • 論文の書き方についてのミニ講義を、コースの中で時間をとって行う
  • 「論文の書き方」についてのプリントを作り配付する
  • 見本となる論文を配付し、形式や構成のモデルにさせる
  • 論文の書き方についての副読本を指定する

 また、学生に論文らしい論文を書かせたいのであれば、課題の出し方、評価の仕方についても工夫をする必要があります。

  「○○について述べよ」というような漠然とした課題は避けましょう。漠然とした課題に対しては学生は何を書いてよいかわからず、結果として構成のしっかりしない随筆ふうの散漫な文章を書いてしまいます。課題を具体化するためには、次のようなしかけを試みてみたらどうでしょうか。

  • 対立する見解が生じているような話題について、いずれの見解に賛同するかを問う。
  • ある状況を設定して、「もし君がこの状況に置かれたらどのように判断するかを述べ、その判断の根拠を明確にするとともに、その判断を正当化せよ」というようなシミュレーション課題を与える。
  • 論点が明確に書かれている既存の論文を配付し、それを分析・批判させる。
  • ある現象を取り上げ、なぜそのようになるのかについて仮説と対立仮説を立て、その仮説を支持する証拠、対立仮説を反証する証拠をあげて論じさせる。

などのように、課題に答えようとすることが、そのまま構成のきちんとした論文を書くことにもつながるような課題を与えることが重要です。また、次の点にも注意しましょう。

  • 資料、図書リストなどを配付して、論文を書くための材料を学生に提供しておく。
  • 学生に論文をどのような観点・基準で評価するかをあらかじめ伝えておく。その評価基準を満たそうとすると、構成が明確で形式の整った論文を書かざるをえないようにしておくことが重要です。
    情報創造論の卒論の書き方

    学生配付用の学期末論文評価基準の例

 

7.3 オフィスアワーなどを通した学生指導

 授業時間外に、学生がコースの内容についての質問や学習上の悩みなどについて相談を希望する場合、なんらかの形で必ずそれを受け入れる必要があります。しかし、いつでもどこでもOK、というわけにはいかないのが実情かもしれません。重要なのは、学生との間にルールを設けておき、それを双方が理解し尊重する、ということです。それは、週の特定の曜日・時間帯を学生との面談を最優先する時間帯としてあらかじめ指定しておく、いわゆる「オフィスアワー」を定める、というやり方でもよいですし、「研究室のドアをいつも開けておくから自由に入ってきていいよ。ただし、どうしても邪魔されたくないときだけは閉めておくから、その場合は遠慮してほしい」ということでもよいでしょう。そのほかには、次のような項目についてあらかじめ約束しておく必要があります。

  • 電子メールによる質問を受け付けるかどうか。
  • 質問の内容について、たとえば、宿題を出したかどうか、課題の締め切りはいつかというような質問はシラバスに明記してあるので答えない、など。
  • 自宅で質問を受け付けるかどうか。受け付ける場合は、何時まで電話をかけてよいか。
コラム:オフィスアワーのガイドラインを作りましょう