Teaching Tips at Nagoya


授業の基本
1:コースをデザインする
2:授業が始まるまでに
3:第一回目の授業
4:日々の授業をデザインする
5:魅力ある授業を演出する
6:学生を授業に巻き込む
7:授業時間外の学習を促す
8:成績を評価する
9:自己診断から授業改善へ
10:学生の多様性に対する配慮


7:授業時間外の学習を促す


  • 学習を上手に促す課題を与えよう


まずは無理なくスタート

 ここで扱おうとしているのは、学生を成績評価するための課題ではなく、学生の講義外の学習を促すための課題だということに注意してください。したがって、はじめから学生が負担に感じる「重い」課題を与え、学生の意欲をそいだり、最悪の場合コースからドロップアウトさせてしまうのでは意味がありません。コースを通じて適切な量の課題をまんべんなく与えていくこと、初めのうちは学生が取り組みやすい課題を与えていくことが重要です。
  • 学生がどの程度の能力と知識を持っているかを把握し、最初のうちはすべての学生がすでに持っている知識・技術を用いてとりくめるような簡単な課題を用意する。
  • 無難な課題と、少々骨が折れるが挑発的でやりがいのある課題、個人で取り組める課題かグループで行う課題、というように、課題の形式、内容についていくつかの選択肢を用意する。あるいは、中間試験を受けてもよいし、小論文を書いてもよい、というような選択肢もありえます。


やらせっぱなしは禁物・課題は必ずフィードバックしよう

 学生に課題を提出させたときには、すぐに何らかのフィードバックを行うことが重要です。課題を提出しても教師側から何の反応も返ってこないとなると、学生は、せっかく課題を果たしても自分の向上につながるものを得ることができないことに気づき、課題を通じて学ぶ意欲を失ってしまいます。こうなると、学生から提出される課題はますますノルマを果たすだけの手抜きのものとなり、教師はそのような手抜きの課題にがっかりして…、という悪循環が始まります。
 理想的には、課題や小論文はすぐに採点、コメントして返却すればよいのですが、大人数の講義の場合なかなかそうもいかない、TAにまかせることもできない、ということもあるでしょう。そのような場合は次のコツを参考にしてください。とにかく、何らかの形で学生に提出した課題についてフィードバックを与えることを怠らないようにしましょう。

大人数の講義で課題を効果的にフィードバックするためのコツ

 講義中などに課題を回収したら直ちに模範解答を配布する
 講義開始時に課題を回収し、講義の中で解答を検討する
 次回の講義で課題の中の特徴的な見解や誤解についてコメントする
 学生のよくできた答案・論文を掲示、HPにアップロード、印刷・配布などしてクラスに紹介する
 仲間の書いた論文を批判的に読むミニ論文批評会を開かせる


学生にポートフォリオをつくらせる

 さまざまな課題をやりっぱなしにさせないもうひとつの方法は、学生にコースのためのポートフォリオを作らせることです。ポートフォリオとは、その学生がコースを受講する間に生産した成果物を蓄積したファイルです。たとえば、次のようなものを挟み込みます。
  • 提出し添削を受けた模範課題
  • コースに関連して学生が自分で調べたこと、コメントしたことのすべて
  • 中間試験の答案、その模範解答
 こうしたポートフォリオは学生にとっても教師にとってもメリットがあります。学生は、自分がコースを通じてどのように進歩してきたかをつねに一覧することができます。どれだけの課題を提出したか、あとどれだけの課題が控えているのかなどが自己管理できます。教師にとっては、期末にポートフォリオを提出させることで、それぞれの課題をその都度採点したり、各学生の課題の提出具合をその都度記録にとどめたり、学生からの「先生、ぼくはいくつ課題を出しましたっけ?」という質問に悩まされずにすみます。



  • 書く力を学生に与えよう


 かつて日本の大学の授業では、試験の代わりに最後にレポートで評価、そのレポートは返却されないから学生は自分の出来映えについて知ることはできず、かくして「書けば単位もらえるからラッキー!」という悪習が定着、というのが典型でした。こうした旧来のやり方のまずい点は次の3つです。
  1. フィードバックがないため学生は書くことを通じて学ぶことができない。
  2. コースの最後に一回だけ書かせるという単発的なやり方のため学生に書くことのスキルが身につかない。
  3. 「レポート」という単一のカテゴリーにすべてのライティングを押し込めているために、学生は目的に応じた文章の書き方を意識することを身につけることができない。
 第1の点についてはすでに述べましたので、ここでは第2、第3の点について詳しく述べましょう。学生はひとつのコースを通じて、何度かの機会にわたって複数のタイプの文章を訓練を施されるのが理想的です。特に、学期末論文においては、それが形式面でも学術論文に準じたものになるようにトレーニングされるべきです。逆にこうした訓練を1年生の頃から行っていれば、卒業論文制作時に、論文の形式上の事柄について口うるさく指導せずにすむわけです。何でもかんでも「レポート」と呼んでしまう日本の大学での風習には、そろそろさよならを言うべき時が来ているのではないでしょうか。


学生がコースで書く文章のタイプと目的

  • One-Minute Paper・Reaction paper・質問カード 
呼び方は様々あるようですが、講義中や講義終了後比較的時間を置かずに書かれるもので、講義のまとめ、講義についての感想や質問を形式にこだわらずに書く、比較的短いもののことを指します。学生による授業評価のために用いられることもあります。

  • log ・journal 
講義外での学習を促す目的で課される短い報告のことです。たとえば、講義に関連した課題図書や課題論文を読み、その内容をまとめた上で、それについての疑問、コメントなどを書くものです。コースの間に複数回課されることが普通です。

  • term paper(学期末論文)
文字通り、コースの最後の仕上げに書かれる小論文のことです。これは内容の構成(導入・本文・結論)、執筆の形式(注・参考文献表)ともに学術論文の体裁で書くように指導されます。

  • 実験結果報告 
科学実験や観察を行ったときにその結果を報告するために書く報告書です。

 重要なのは、これらの文章はそれぞれ書く目的が異なり、それに応じて適切な書き方も異なるということを、たとえばシラバスに明示するなどして、学生にきちんと伝える、ということです。それを怠ると、「この課題を見たとき、しまったと思いました。というのは…」で始まり「というわけで、そろそろ枚数が足りてきたみたいなのでこの辺で筆を置きます。」で終わるような「論文」を読む羽目になります。


学期末論文の書き方をどのように指導するのか

 さて、問題は、きちんとした学期末論文を学生に書かせるにはどのような指導を行ったらよいか、ということです。これまでは、学生自身の試行錯誤に任されていたように思います。理想的にはごく小人数のクラスで、個別の添削指導を行うということになりますが、ここでは比較的大人数の講義での指導法を考えてみましょう。
  • 論文の書き方についてのミニ講義をコースの中で時間をとって行う
  • 「論文の書き方」についてのプリントをつくり配布する
  • 見本となる論文を配布し、形式や構成のモデルにさせる
  • 論文の書き方についての副読本を指定する

    論文の書き方プリントの一例(べからず集)Under Construction


 また、学生に論文らしい論文を書かせたいのであれば、課題の出し方、評価の仕方についても工夫をする必要があります。

課題は「○○について述べよ」というような漠然としたものを避けましょう。漠然とした課題に対しては学生は何を書いてよいかわからず、結果として構成のしっかりしない随筆風の散漫な文章を書いてしまいます。課題を具体化するためには...

  • 対立する見解が生じているようなポレミックな話題について、いずれの見解に賛同するかを問う。
  • ある状況を設定して、「もし君がこの状況に置かれたらどのように判断するかを述べ、その判断の根拠を明確にするとともに、その判断を正当化せよ」というようなシミュレーション課題。
  • 論点が明確に書かれている既存の論文を配布し、それを分析・批判させる。
  • ある現象をとりあげ、なぜそのようになるのかについて仮説と対立仮説を立て、その仮説を支持する証拠、対立仮説を反証する証拠をあげて論じさせる。
 などのように、課題に答えようとすることがそのまま構成のきちんとした論文を書くことにもなるような課題を与えることが重要です。

  • 資料、図書リストなどを配布して、論文を書くための材料を学生に提供しておくことも有効です。
  • 学生に論文をどのような観点・基準で評価するかをあらかじめ伝えておきましょう。その評価項目を満たそうとすると、構成が明確で形式の整った論文を書かざるをえないような評価基準をたてておくことが重要です。


    情報創造論の卒論の書き方(指導例)

    論文の評価基準の一例



  • オフィス・アワーなどを通した学生指導


 学生が講義時間外にコースの内容についての質問や学習上の悩みなどについて相談を希望する場合、必ず何らかの形でそれを受け入れる必要があります。しかし、研究上の必要や教員のプライヴァシー確保の必要から、いつでもどこでもOK、というわけにはいかないのが実状かもしれません。重要なのは学生との間にルールを設けておき、それを双方が理解し尊重する、ということです。それは、週の特定の曜日・時間帯を学生との面談を最優先する時間帯としてあらかじめ指定しておく、いわゆる「オフィス・アワー」を定める、というやり方でもよいですし、「研究室のドアをいつも開けておくから自由に入ってきていいよ。ただし、どうしても邪魔されたくないときだけは閉めておくから、その場合は遠慮してほしい」ということでもよいでしょう。そのほかには次のような項目についてあらかじめ約束しておく必要があります。
  • 電子メールによる質問をうけつけるかどうか。
  • 質問の内容について。たとえば、宿題を出したかどうか、課題の〆切はいつかというような質問は、シラバスに明記してあるので答えない、というような。
  • 自宅で質問を受けつけるかどうか。受けつける場合は何時まで電話をかけてよいか。


電子メディアを活用しよう

1)メーリングリスト
長所:登録者全体で情報が共有できる。事務を通さずに諸連絡、情報伝達ができる。
短所:設定に手間がかかる。コンピュータにあまりアクセスしない学生には、情報が伝わりにくい。

2)電子掲示板
長所:オンライン上で相談やディスカッションができる。事務を通さずに諸連絡、情報伝達ができる。
短所:設定に手間がかかる。コンピュータにあまりアクセスしない学生には、情報が伝わりにくい。

コラム:オフィスアワーよりも大事なこと



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